コラム

円安はなぜ「日本に追い風」でなくなった? このままでは途上国型経済に転落も

2022年06月07日(火)20時50分

このため採算が合わなくなると生産を海外に移管せざるを得ず、国内にとどまったケースでも、十分な収益を確保できていない状況が推察される。これではいくら輸出の自国産比率が高くても円安のメリットを得ることはできない。日本電産やファナックといった好収益企業はむしろ例外と考えたほうがよいだろう。

要するに日本企業が提供する製品の付加価値が低いことが最大の原因であり、これが解消されない限り、事態は改善しない。日本企業におけるITなどの資本装備率は諸外国と比較して低く、日本企業はむしろ労働集約型になっている。安価な労働力と円安に頼るビジネスを続けていると、コストしか差別化要因のない低付加価値製品ばかりを製造する、いわゆる途上国型経済に転落してしまう。

今回の円安は日本の低付加価値な産業構造を変える最後のチャンスかもしれない。ここで思い切った決断ができなければ、状況はさらに悪化する可能性が高い。

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プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

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