コラム

トランプ新政権で米国は好景気になる可能性が高い

2016年11月14日(月)16時01分

Joshua Roberts-REUTERS

<トランプ大統領誕生で、米国経済は、世界経済は、そして日本経済はどうなるか。「公約」の大規模インフラ投資は果たして効果があるのか。保護主義とTPP離脱を掲げるが、日本はどう対応すべきか>

 米大統領選は大方の予想に反してトランプ氏が逆転勝利した。市場はクリントン候補の勝利を織り込んでいたことから、9日の日経平均株価は1000円近くも下げた。だが続いて取引を開始した米国の株式市場はトランプ氏の勝利を好感し、ダウ平均株価は大きく値を上げた。

 筆者は以前から、トランプ氏が大統領に当選した場合、彼の人格問題は別にして、米国は意外と好景気になるかもしれないと述べてきた。その意味ではトランプ氏勝利を受けた株式市場の反応は極めて自然なものに思える。ただトランプ氏が掲げる保護主義的な政策は、行き過ぎれば世界経済に極めて深刻なダメージを与える。世界貿易が停滞することで、最終的に米国経済も足を引っ張られてしまうリスクは否定できない。日本を初めとする各国にとってトランプ政権の誕生は大きな試練となるだろう。

大規模なインフラ投資は米国経済にプラス?

 筆者がトランプ氏の大統領就任で米国が思いのほか好景気になる可能性が高いと考える最大の理由は、トランプ氏が掲げるインフラ投資である。

 トランプ氏は、自著で1兆ドル(約102兆円)という巨額のインフラ投資を主張しており、選挙戦の最中の8月にはクリント氏が主張する金額の少なくとも2倍の金額を投じるとも発言している。クリントン氏は総額で2750億ドルの投資を公約に掲げていたので、この2倍以上ということになれば約6000億ドル近くになる。これを4年で均等に支出した場合、各年度における直接的な経済効果は1500億ドルである。

 日本人の感覚からすると大きな金額に思えるが、米国経済の現状を考えると実はそうでもない。米国のGDPはすでに18兆ドルと日本の4倍近くもあり、インフラ投資が直接的にもたらす効果はGDPの0.7%程度に過ぎない。だが、この規模の投資が継続的、かつ重点的に実施されれば、米国の産業基盤は着実に強化される。投資は今後の成長の原動力となるものであり、労働者の所得が増えるなど消費にも好影響を与えるだろう。需要不足が指摘される現状の米国経済において投資を拡大するメリットは大きいはずだ。

 クリントン氏は投資の財源として富裕層課税を掲げていたが、トランプ氏は逆に減税を主張している。減税を主張した以上、インフラ投資の財源として税金を充当することは難しく、最終的には国債を増発する形で費用を捻出することになる可能性が高い。増税によるマイナス要因がないので、短期的には経済にプラスに作用するだろう。

【参考記事】アメリカ企業、トランプ勝利で海外利益への大幅減税を期待

 国債が追加発行された場合、金利が上昇する可能性が高まってくる。場合によってはインフレ懸念の台頭ということになるが、米国の金利が完全に正常化できていない現状を考えると、国債の追加発行は低金利を脱するよいきっかけとなるかもしれない。そうなれば、FRB(連邦準備制度理事会)による金融政策との整合性も取れるのでむしろ好都合である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

過度な変動への対応、介入原資が制約とは認識してない

ビジネス

米新興EVリビアン第1四半期は赤字拡大、設備改修コ

ビジネス

アングル:米企業のM&A資金、想定利下げ幅縮小で株

ビジネス

円安にはプラスとマイナス、今は物価高騰への対応重要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story