コラム

コロナ危機で圧倒的に不利になる貧しい子供の教育

2020年04月16日(木)17時15分

今年の統一試験は「教師の主観を混ぜた総合評価」になるだろう Luke MacGregor-REUTERS

<労働者階級の子供たちは裕福な家庭のような自宅学習を受けられないだけでなく、公平公正な筆記試験の機会すら奪われそう>

新型コロナウイルスの混乱とロックダウンのなか、この1つの事柄を取り上げるのはひねくれ者に見えるかもしれないが、学校閉鎖がいかに貧しい家庭の子供たちを不利な立場に追いやることになるか、僕は特に懸念している。概して、高い教育を受けた両親を持つ、より裕福な家庭の子供たちは、本が簡単に手に入るという点であれ、両親に教えてもらえたり、オンラインの個人授業を受けられたり、あるいは単に兄弟と同室ではなく勉強できる自分の部屋があるという意味であれ、つまりはよりよい自宅学習を受けられるということになるだろう。

分かり切ったことかもしれないが、教育はレースのようなものだ。誰が最も賢いかを明確に計りはしないが、ある一定の段階において誰が最も知識を持っているかは、仲間の集団と比べて計られる。先頭グループはよりよい大学に入り、その後の人生によりよい展望を描ける。それは人生の成否を分ける可能性がある。僕の経験ではまさにそうだった。

今年、GCSE(イギリスの義務教育修了時に行われる統一試験)とAレベル(2年間の高等教育後に行われる全国統一試験)は、点数をつけるというより、「教師の主観を混ぜた総合評価」になるだろう。16歳で受けるGCSEは、学問的な才能がある人物かを判断して得意科目を見極めるためのもの。18歳で受けるAレベルは、どの大学に入れるかを決めるものだ。

僕は学生時代、常に教師たちから過小評価されていただけに、教師の主観を混ぜた評価には個人的に警戒感を覚えてしまう。たぶん僕が学校で、さえない教師の授業にすぐに退屈してしまう、だらしなくて反権威的な生徒だったからだろう。僕がちゃんと宿題をやったか親がのぞき込んで確認しなかったからというただそれだけの理由で、僕はしょっちゅう宿題をやり忘れた。これらを見ても、僕はかなり典型的な労働者階級のティーンエイジャーだったわけだ。

だから教師たちは僕を好かず、高評価もしなかった。不公平だが、一理ある――この意味、分かってもらえるだろうか。もしも僕が16歳の時に教師の主観込みの総合評価を受けていたら、ひどい成績だったろうし、大学を目指すことさえやめたほうがいいと勧められていたかもしれない。進路指導担当教師は、その前から既に、僕に郵便配達員になるのを勧めていた。

「育ちのいい子」のほうが出来がいいという主観

にもかかわらず、16歳時の僕の試験の成績はそれなりにまともで、僕が歴史科目で適性ありなことを示していた。僕はこれに基づいて5つの名門大学に出願し、全てに合格し、その中でオックスフォード大学に進学した。オックスフォード大学でも僕は、2人のチューター(学生の個人指導に当たる教授)から「あまり賢くない」というようなことを言われるという経験をした(1人は僕のなまりをからかい、もう1人は僕を平均まで「引き上げて」あげようと言った。実際には僕は卒業試験でトップ評価を目指していたし、実際にトップを取ったのだが)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「CT写真」で体内から見つかった「驚愕の塊」
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 8
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 9
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 10
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story