コラム

アメリカから世界に輸出されるテロリストたち──いま、そこにある「個別の11人」の脅威

2022年10月02日(日)17時00分

非国家アクターを管理できないアメリカ

アメリカの白人至上主義過激派グループは非国家アクターに分類できる。非国家アクターには、民間企業やNPOなどさまざまなものがある。アメリカは長らく非国家アクターを管理できない状態を良しとしてきた。市民の自由な活動を許容するオープンな社会のためである。国内で留まっているなら、それはアメリカという国の国民が選択したもので済むが、アメリカから世界に広がっていることは大きな問題だ。

ichida20221027cc.jpg

アメリカの自由でオープンな社会が生み出したSNSプラットフォームは世界各国で社会問題や差別を悪化させ、権威主義国のために検閲機能つきのクラウドなどを提供し、QAnonは世界各国に陰謀論をばらまき、白人至上主義グループは暴力を拡散することになった。

見えない無数の支持者に支えられた多頭の獣

アメリカがこのような状況に陥ったことには、第三国の仕掛けた影響工作も多少は関係あるかもしれないが、それはあくまですでにあった問題を広げるための手伝いをしたにすぎない。アメリカ型の民主主義がもともと企業などの非国家アクターに大きな自由を認めてきた結果である。もちろん技術発展、経済発展などのメリットはたくさんあった。それと同時にデメリットもあり、積み重なって現在のような事態となった。

アメリカ型民主主義は白人至上主義過激派グループやQAnonなどの無数の反主流派(反アメリカ、グローバルノース的価値感の否定)を国内外に生み出し、個人から国際組織まで世界を構成するすべての階層で反主流派が台頭することとなった。そしてアメリカ国内では白人至上主義過激派グループなどが安全保障上の脅威となるまでになった。

これらのグループは、いわば「多頭の獣」で、見えているのは頭だけで、中心となる本体は見えていない。無数の人々が反主流派に共感し、サイトにアクセスし、クラウドファンディングで資金を提供し、そして一部は過激なグループに加わって行動を起こす。

そのため活動しているグループを潰しても、すぐに次のグループが誕生するし、メンバーは柔軟に参加するグループを変えていく。「多頭の獣」の本体は増えつつある。

これまでの過激派グループは、頭も身体もひとつで本体は頭だった。だから頭をつぶせば胴体もなくなることが多かった。しかし、多頭の獣は胴体が本体にある。いままでのやり方では、終わることのないモグラ叩きを繰り返すことになる。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=上昇、FRB当局者の利下げ発言を好感

ワールド

米国務長官、中国にイランへの働きかけ要請 ホルムズ

ワールド

米下院議長、対イラン軍事制限法案の採決拒否 米軍基

ワールド

米・イラン対立激化懸念高まる、トランプ氏支持率低下
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story