焦点:イラン攻撃1カ月、厳しい選択迫られるトランプ氏
写真はイスラエルに向けて飛翔するイランのミサイル。3月27日、エルサレムで撮影。REUTERS/Jamal Awad
Matt Spetalnick Nandita Bose Humeyra Pamuk
[ワシントン 28日 ロイター] - 米軍とイスラエル軍がイランへの攻撃を開始してから1カ月が経過し、トランプ米大統領(共和党)は、世界的なエネルギー価格高騰と支持率低下に直面して厳しい選択を迫られている。選択肢は、不満が残る合意を結んで撤退するか、軍事行動をエスカレートさせて大統領職を台無しにする可能性のある紛争長期化のリスクを背負い込むかだ。
イランは対抗策としてホルムズ海峡の事実上の封鎖で湾岸地域の石油・ガス輸送を締め付け、ミサイルやドローン(無人機)で周辺国への攻撃を続けている。
アナリストらによると、現在の核心的な問題はトランプ氏がイランとの戦闘を収束させる用意があるのか、それともエスカレートさせる準備をしているのかという点にある。この戦闘は、過去最悪レベルの世界的なエネルギー供給ショックを引き起こしている。
ホワイトハウスの当局者によると、トランプ氏は側近に対して「終わりのない戦争」を避け、交渉による解決を図りたいと伝え、自身が公に示した4―6週間という戦闘期間を強調するようにと促した。この当局者は、そのような時間軸は「不安定」に見えると指摘した。
一方でトランプ氏は、交渉が決裂した場合には軍事行動を大幅に拡大すると脅している。
パキスタンを経由した裏ルートでイランに提示した15項目の和平提案を含めたトランプ氏の外交的な働きかけは、事態の収束を一段と切実に模索していることを示しているようだ。しかし、現時点で実りある交渉への現実的な見通しがあるかどうかは依然不透明だ。
元米国家情報副長官(中東担当)のジョナサン・パニコフ氏は「トランプ氏にとってこの戦争を終結させる選択肢は、どこを見ても乏しい」とし、「課題の一つは、どのような結果が満足のいくものなのかが明確でない点にある」との見解を示した。
ホワイトハウスの当局者は、イランに対する作戦は「最高司令官が、わが国の目的が達成されたと判断した時点で終了する」と主張した。
<拡大する戦争の封じ込めに苦慮>
トランプ氏は中東にさらに数千人の米軍部隊を派遣しており、イランが自身の要求に応じない場合には地上部隊の投入を含めて攻撃を強化すると警告している。
アナリストらは、こうした脅しは米国をより長期にわたる紛争に巻き込むリスクがあり、イランへの地上部隊派遣は多くの米国民の反発を招く可能性があると指摘する。
専門家たちによると、米軍が「オペレーション・エピック・フューリー」と呼ぶ対イラン軍事作戦で大規模な空爆を実施し、イランの軍事力と核施設を弱体化させた後、トランプ氏が戦闘の目的は達成されたと勝利宣言を出して撤退するシナリオも想定されている。
だが、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が完全に解消されない限り、そのような主張は空虚に響くだけだ。トランプ氏は、ホルムズ海峡の安全確保を支援するために軍艦を派遣することを欧州の同盟国が拒否したことに不満を表明している。
ホワイトハウスの当局者によると、トランプ氏は勝利を強調する発言を続ける一方で、神経質になっている金融市場を安心させるためにメッセージのトーンを徐々に変えている。側近らに対しては「戦争はまもなく終わる」と強調するよう促しているという。
しかしながら、明確な撤退戦略がないことはトランプ氏の大統領としての威信にとどまらず、議会で過半数を僅差で保っている共和党が11月の中間選挙で敗北するリスクももたらしている。
トランプ氏の最大の誤算は、イランによる報復が想定を上回っていたことだ。イランは抱えているミサイルやドローンでイスラエルや近隣の湾岸諸国を攻撃し、世界の石油の約5分の1が通過するホルムズ海峡を事実上封鎖することで世界経済に衝撃を与えた。
米首都ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のジョン・アルターマン氏は「イラン政府の賭けは敵対勢力より長く、より大きな痛みに耐えられるだろうというものであり、その見込みは正しいかもしれない」と指摘した。
ホワイトハウスの当局者は、トランプ氏が率いるチームはホルムズ海峡でのイランの対応に「万全の準備」を整えており、海峡が近いうちに再開されると確信していると発言した。
ところが、トランプ氏の不安が高まっていることを最も如実に示す兆候は今月23日に現れた。イランがホルムズ海峡を経由した船舶の航行再開を認めない場合には同国のエネルギー施設を攻撃するとけん制していたのを、攻撃を5日間延期すると宣言したのだ。26日には攻撃を4月6日まで10日間停止すると表明した。
同時に、国内での圧力も高まっている。
世論調査によると、イラン攻撃は米国民の間で圧倒的に不人気だ。ロイターとイプソスが23日発表した調査でトランプ氏の支持率は36%まで低下し、2期目の最低を更新した。
元トランプ政権高官はロイターに対し、ホワイトハウスは戦闘による政治への影響に対する懸念を強めており、共和党所属の議員たちが中間選挙への不安を表明していることが背景にあると語った。
共和党のロジャース下院軍事委員長は26日、イランへの軍事作戦の規模について十分な情報を提供していないとしてトランプ政権を批判した。
これに対し、ホワイトハウス当局者はトランプ氏の側近たちが戦闘の前後に何度も議会に説明してきたと反論した。
<指導部殺害で複雑化した外交努力>
アナリストらによると、米国とイスラエルの空爆によって殺害されたイランの指導部の後任に、さらに強硬姿勢の新指導部が就いたこともあらゆる外交努力を複雑にしているという。新指導部は、過去1年間に双方が交渉中だったにもかかわらず2度にわたって空爆を仕掛けたトランプ氏への不信感をあらわにしている。
ホワイトハウスの当局者は「大統領は耳を傾ける用意はあるが、彼ら(新指導部)が現実を受け入れなければ、かつてないほど厳しい打撃を受けることになるだろう」と警告した。
一方、イスラエル当局者はトランプ氏が譲歩し、イランへの空爆の手を縛られることになるとの懸念を示している。
湾岸地域にある米国の同盟国も、傷ついて敵対的になったイランを隣国に抱え込むことになる可能性があるため、米国の性急な撤退に反発するかもしれない。
<トランプ氏が「矛盾したシグナルを発信」>
もしもトランプ氏が地上部隊の派遣を実際に準備しているならば、イラン最大の石油輸出拠点カーグ島や、他の戦略的な島しょ部を占領したり、沿岸部で作戦を展開したり、特殊部隊を派遣してイランが保管している高濃縮ウランの備蓄を奪取するといった複雑な作戦に打って出る可能性がある。
こうした動きは、トランプ氏が自身の任期中に米国が決して巻き込まれないと約束したイラクやアフガニスタンでの長期的な戦闘を思い起こさせ、より広範な紛争へとエスカレートする恐れがある。米軍の死傷者が増えるリスクもあり、作戦の目的に対してさらなる疑問を投げかけることになるだろう。
湾岸諸国の当局者は、複数の湾岸同盟国が米国に対し、イランへ米軍地上部隊を派遣しないよう警告していると明らかにした。同盟国側は、そのような行動を取ればイランのさらなる報復攻撃を招き、自国のエネルギー施設や民間インフラが標的となる可能性があると指摘している。
ホワイトハウス当局者は、トランプ氏が「現時点でどこにも地上部隊を派遣する計画はない」と明言したとしつつ、常にあらゆる選択肢を視野に入れているとも表明した。
トランプ氏は今のところ、世界中を翻弄し続けている。ある時は不安定な市場を落ち着かせるために発言し、次の瞬間にはエネルギー価格を急騰させるような威嚇に転じている。
米ジョンズ・ホプキンス大高等国際問題研究大学院(SAIS)のローラ・ブルーメンフェルド氏は「トランプ氏は矛盾したシグナルを発信している」とし、「トランプ氏は敵を混乱させるため、たった一人で『戦場の霧』のようにメッセージを発信する機械となっている」と揶揄した。





