ニュース速報
ワールド

マクロスコープ:日銀審議委員人事で探る高市政権の市場観、「謙虚」か「強気」か

2026年02月10日(火)16時52分

写真は高市首相。2月9日、東京で代表撮影。REUTERS

Kentaro ‍Sugiyama

[東京 10日 ロイター] - 衆院選で自民党が歴史的な大‌勝を収めたことで、高市早苗政権が看板政策の「責任ある積極財政」を進めていく方向性は明確となった。金融市場では株価が急騰する一方、財政拡張懸念で売られてきた円や債券はいったん値動きが収‌まっている。高市氏がどこまで市場の​信認を重視しているのか探るうえで、まずは政権発足後で初めてとなる日銀の審議委員人事に関心が寄せられている。

衆院での圧倒的多数を背景に、高市政権の裁量は大きく広がった。ある官邸官僚経験者は「選挙後の政権とって最大のイシューは、金融政策の正常化をどのようなペースと手順で進めるのかだ」と指摘し、その入口となるのが日銀人事だと‌話す。

<時の首相の考え反映>

日銀では3月31日に野口旭氏、6月29日に中川順子氏がそれぞれ審議委員の任期を迎える。野口委員は金融緩和に積極的なハト派、中川委員は中立的と受け止めが一般的だ。

審議委員は政府が候補を選定し、国会の同意を得て任命される。選定過程の詳細が表に出ることは少ないが、最終的な判断には時の首相の考えが反映されるといわれる。

政府関係者の一人は「高市政権の対マーケット感覚や対話姿勢を、ある程度うかがわせるものになりそうだ」と話す。選挙で大勝したからこそ、後任人事は政権が市場に対して「謙虚」なのか、「強気」なのかを測る試験紙になり得るとの見方が多い。

審議委員人事の重みを指摘する声もある。前出の官邸経験者は、現​在日銀が植田和男総裁のもとで進めている金融政策の正常化について「2022年の高田創⁠審議委員の起用から、出口を意識した議論の布石は打たれていた」と解説する。

高市政権の経済政策を支える‍日本成長戦略会議や経済財政諮問会議では、リフレ派と受け止められている有識者の起用が相次いで話題になった。

そのうちの一人、成長戦略会議の構成員でもあるクレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストは「利上げに慎重な人物が起用される可能性がある」とみる。高市首相が諮問会議で植田総裁に「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」の両立を期待すると直接伝えた‍ことについて「事実上、日銀にデュアルマンデート(二重の使命)を課した」と指摘。審議委員‍人事でも‌政府の基本方針を理解した人物が選ばれると述べている。

<市場との関係が最大のリスク‍に>

市場参加者は、金融政策の方向性だけでなく、官邸や政府内でどの助言や意見が影響力を持っているのかを手掛かりに、政権が金融政策をどの程度重く位置づけているのかを見極めようとしている。

大和証券の末広徹チーフエコノミストは「首相が日銀を一定程度コントロールできると考えていれば、審議委員の人事をそれほど重く受け止めない可能性もある」と話す。その場合、「知己のあるリフレ派⁠の推薦をそのまま受け入れる」といった判断に傾く余地も否定できないという。

足元、国政選挙は28年夏頃の参院選まで行われない。高市首相の自民党総裁としての任期は27年9月までで、再⁠選すればさらに伸びる。27年7月に任期を迎える高田委員と‍田村直樹委員の後任、政権が長期化すれば、28年4月の植田総裁の後任人事まで視野に入ってくる。

これだけ大勝したからこそ、「野党のせいにできない分、政策運営はイケイケドンドンではなく安全運転になる」(経済官庁幹部)との見方もあ​る。マーケットとの関係が政権にとって最大のリスク要因になりつつあるためだ。

「責任ある積極財政」が賃金と物価の持続的な好循環につながるのか、それとも円安やインフレ圧力を強める結果に終わるのか。ある政府関係者は、高市政権が行っているのは「一つの実験」だと表現。その成功も失敗も国民の選択の結果だと語った。

(杉山健太郎 編集:橋本浩)

ロイター
Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英バークレイズ、25年は12%増益、業績目標引き上

ビジネス

アングル:高市トレード、個人も順張り 反転リスクに

ワールド

中国、国防産業監督機関の元幹部を汚職で起訴

ワールド

韓国企画財政相、米投資案件を事前審査へ 法案可決前
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 8
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 9
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 10
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中