マクロスコープ:日銀審議委員人事で探る高市政権の市場観、「謙虚」か「強気」か
写真は高市首相。2月9日、東京で代表撮影。REUTERS
Kentaro Sugiyama
[東京 10日 ロイター] - 衆院選で自民党が歴史的な大勝を収めたことで、高市早苗政権が看板政策の「責任ある積極財政」を進めていく方向性は明確となった。金融市場では株価が急騰する一方、財政拡張懸念で売られてきた円や債券はいったん値動きが収まっている。高市氏がどこまで市場の信認を重視しているのか探るうえで、まずは政権発足後で初めてとなる日銀の審議委員人事に関心が寄せられている。
衆院での圧倒的多数を背景に、高市政権の裁量は大きく広がった。ある官邸官僚経験者は「選挙後の政権とって最大のイシューは、金融政策の正常化をどのようなペースと手順で進めるのかだ」と指摘し、その入口となるのが日銀人事だと話す。
<時の首相の考え反映>
日銀では3月31日に野口旭氏、6月29日に中川順子氏がそれぞれ審議委員の任期を迎える。野口委員は金融緩和に積極的なハト派、中川委員は中立的と受け止めが一般的だ。
審議委員は政府が候補を選定し、国会の同意を得て任命される。選定過程の詳細が表に出ることは少ないが、最終的な判断には時の首相の考えが反映されるといわれる。
政府関係者の一人は「高市政権の対マーケット感覚や対話姿勢を、ある程度うかがわせるものになりそうだ」と話す。選挙で大勝したからこそ、後任人事は政権が市場に対して「謙虚」なのか、「強気」なのかを測る試験紙になり得るとの見方が多い。
審議委員人事の重みを指摘する声もある。前出の官邸経験者は、現在日銀が植田和男総裁のもとで進めている金融政策の正常化について「2022年の高田創審議委員の起用から、出口を意識した議論の布石は打たれていた」と解説する。
高市政権の経済政策を支える日本成長戦略会議や経済財政諮問会議では、リフレ派と受け止められている有識者の起用が相次いで話題になった。
そのうちの一人、成長戦略会議の構成員でもあるクレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストは「利上げに慎重な人物が起用される可能性がある」とみる。高市首相が諮問会議で植田総裁に「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」の両立を期待すると直接伝えたことについて「事実上、日銀にデュアルマンデート(二重の使命)を課した」と指摘。審議委員人事でも政府の基本方針を理解した人物が選ばれると述べている。
<市場との関係が最大のリスクに>
市場参加者は、金融政策の方向性だけでなく、官邸や政府内でどの助言や意見が影響力を持っているのかを手掛かりに、政権が金融政策をどの程度重く位置づけているのかを見極めようとしている。
大和証券の末広徹チーフエコノミストは「首相が日銀を一定程度コントロールできると考えていれば、審議委員の人事をそれほど重く受け止めない可能性もある」と話す。その場合、「知己のあるリフレ派の推薦をそのまま受け入れる」といった判断に傾く余地も否定できないという。
足元、国政選挙は28年夏頃の参院選まで行われない。高市首相の自民党総裁としての任期は27年9月までで、再選すればさらに伸びる。27年7月に任期を迎える高田委員と田村直樹委員の後任、政権が長期化すれば、28年4月の植田総裁の後任人事まで視野に入ってくる。
これだけ大勝したからこそ、「野党のせいにできない分、政策運営はイケイケドンドンではなく安全運転になる」(経済官庁幹部)との見方もある。マーケットとの関係が政権にとって最大のリスク要因になりつつあるためだ。
「責任ある積極財政」が賃金と物価の持続的な好循環につながるのか、それとも円安やインフレ圧力を強める結果に終わるのか。ある政府関係者は、高市政権が行っているのは「一つの実験」だと表現。その成功も失敗も国民の選択の結果だと語った。
(杉山健太郎 編集:橋本浩)
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