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アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約がエネ移行の妨げに

2025年11月23日(日)08時12分

写真は陝西省神木の火力発電所。2023年11月撮影。 REUTERS/Ella Cao

Sudarshan Varadhan

[ベレム(ブラジル) 19日 ロイター] - 世界的な気候変動対策を進める上で、インドネシアやベトナムのようなアジア諸国の石炭火力発電への依存が大きな障害となっている。気候研究者や再生可能エネルギー推進団体によると、クリーンなエネルギー源への移行がアジアで遅れている背景には、数十年の長期に渡る石炭火力発電による電力の購入契約があるという。

石炭火力発電からの脱却を目指す国際的な枠組み「脱石炭連盟(PPCA)」によると、東南アジアでは石炭火力発電容量の50─100%が長期の電力購入契約で縛られており、その平均の有効残り期間は9─18年に及ぶ。再生可能エネルギーの専門家によると、中国やインドのようなアジアの主要経済国の買い手も石炭火力発電の長期購入契約を結んでいる。

ブラジルで開催された国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)に出席したPPCAのジュリア・スコルプスカ事務局長は、「こうした契約の多くは、再生可能エネルギー適合した新しい電力供給システムの要請に対応できない」と語った。

<安定した収入と雇用>

気候シンクタンクのエンバーのデータによると、東南アジアの石炭依存度は、過去10年間で年間発電量の35%から約45%に増加した。同期間、世界の石炭依存度は39%から34%に低下している。

東南アジアではクリーンエネルギーの導入率も世界平均(41%)に遅れをとっており、年間発電量の26%にとどまっている。

長期契約は、石炭発電所のオーナーには安定した収入を保証し、従業員には安定した雇用を保証する。このため、発電所オーナー側にとっては石炭からの移行は政治的にも経済的にも魅力がない。

また、電力供給会社側が石炭火力電力の購入契約を反故にした場合、契約内容や購入不足分の規模に応じて、さまざまな形で違約金を支払うリスクも負うことになる。

<中国とインドの石炭火力発電>

中国では、主にクリーン発電の増加によって18カ月連続で二酸化炭素の排出量が横ばいか減少しており、排出量は今年減少に転じる見通しだ。それでもなお、石炭需要は依然として高い。

政府の統計によると、10月の石炭・ガス火力発電所の発電量は前年比で7.3%増加した。

ヘルシンキを拠点とするエネルギー・クリーン・エア研究センター(CREA)の主任アナリスト、ラウリ・マイリヴィルタ氏は、「懸念されるのは、昨年末に起きた事態の繰り返しだ。送電網事業者が過剰に長期契約の石炭火力電力を確保してしまい、その結果、太陽光と風力の出力抑制を決めた」と述べた。

日本、オーストラリア、インド含むアジア太平洋地域の主要国でも、今年に入って再生可能エネルギーの抑制が強まっている。

エネルギー調査会社ウッド・マッケンジーによると、中国の太陽光発電の抑制率は、今後10年間で21の省で平均5%以上になると予測されている。

一方、インド政府のクリーンエネルギー容量拡大方針にもかかわらず、インド各州は石炭火力発電事業者と新たに長期契約を結ぶ計画だ。

エンバーとコンサル会社「気候トレンド」は共同報告書で、再生可能エネルギーによる発電が増加する中で、電力小売業者が石炭火力発電事業者との数十年単位の契約に依存することは、多額の固定料金と石炭資産の焦げ付きを招く恐れがあると指摘している。

同報告書の執筆者の1人で、気候トレンドのエネルギー部門担当のシュレヤ・ジャイ氏は、「電力供給会社は、資源計画を練り直し、電力購入契約を柔軟なものにする必要がある」と、述べた。

ロイター
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