ニュース速報
ワールド

マクロスコープ:対米投資1号案件は先送り 日本政府、文書公表で履行姿勢アピール

2025年10月28日(火)18時24分

 日米両政府が28日に公表した「日米間の投資に関する共同ファクトシート」には、関税合意に基づく5500億ドル(約83兆円)の対米投資「候補」となる日米企業名が並んだ。都内で同日撮影(2025年 ロイター/Evelyn Hockstein)

Tamiyuki Kihara

[東京 28日 ロイター] - 日米両政府が28日に公表した「日米間の投資に関する共同ファクトシート」には、関税合意に基づく5500億ドル(約83兆円)の対米投資「候補」となる日米企業名が並んだ。具体的な企業名の公表に踏み込むことで、日本政府は合意を誠実に履行する姿勢を米国側にアピールする考えだ。

ただ、公表が「候補」にとどまった背景には、政府の意向と企業側の事情が必ずしも一致していない実情も見え隠れする。米国側は第1号案件を年内にも選定したい考えだが、今回のトランプ米大統領来日がどこまで企業の背中を押すかは不透明だ。

<時間切れ>     

「何か文書を出さないと米国との関係がもたなかった」。高市早苗首相とトランプ氏による日米首脳会談が開かれた28日、日本政府関係者はファクトシートの発出に至った理由を自嘲気味に語った。

日本政府は7月の関税合意以降、対米投資を実施できそうな企業への働きかけを強めてきた。交渉に携わった内閣官房幹部は「トランプ氏の来日に合わせて第1号案件を発表できれば一番いい」と意気込んだ。実際、手を挙げる企業も現れ始め、中心となって取り仕切る経済産業省幹部は「モノになりそうな案件が集まってきている」とも期待していた。

ただ、結果的に第1号案件の選定は「時間切れ」となった。トランプ氏が満足する規模や内容のプロジェクトでなければならなかったことや、投資のスキームが複雑で企業側がリスク判断に時間を要したことなどのハードルがあったからだ。前出の内閣官房幹部は「収益性の高い投資であれば企業は政府が呼びかけなくても自らやる。わざわざ複雑なスキームを使うメリットをどう打ち出せるかが難しかった」とも語った。

<いい知恵> 

こうした状況の中で、日本政府が中心となってまとめたのが今回のファクトシートだった。冒頭には「(トランプ氏来日に際し)日米両政府は日米両国の企業がプロジェクト組成に関心を有していることを歓迎した」と記したが、実際に5500億ドルに算入するプロジェクトに仕上げられるかは、あくまで今後の調整次第だ。前出の政府関係者は「文字通り関心があるというファクトを書いたもので、日本の政策方針を書いたものではない」とも強調した。同時に文書発出について「いい知恵だ」とした。

この日、高市氏とトランプ氏は首脳会談を終え、「日米同盟の新たな黄金時代に向けた合意の実施」と題した文書にサインした。関税合意の実施に向けた「強い決意」を確認し、合意が両国の経済安全保障の強化、経済成長の促進に資するとの認識も共有した。     

一方、首脳会談に同席した片山さつき財務相は会談後、記者団に「具体的に何か(投資)案件が決まったということは一切ない」と強調。「緊密に(米国と)連携をとりスピード感を持って誠実に取り組むことは間違いない」とした上で、「もしも非常に早く組成される案件があって、国際協力銀行(JBIC)の予算手当が足りなければ追加するかもしれないが、今のところそういう状況に達しているとは理解していない」と述べた。

(鬼原民幸 編集:橋本浩)

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、ハマスが停戦違反と主張 既収容遺体

ビジネス

ユーロ高、欧州製品の競争力を著しく損なう 伊中銀総

ワールド

ウクライナ、和平交渉の用意あるが領土は譲らず=ゼレ

ビジネス

米景気減速リスクは誇張、資金流入続く 金融大手幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 7
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 8
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 9
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中