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焦点:高市外交「本当のヤマ場」は日中首脳会談、APECで開催調整

2025年10月23日(木)17時35分

 26日からの東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議を皮切りに、高市早苗首相(写真)は重要な外交日程に臨む。10月21日、東京で代表撮影(2025年 ロイター/Eugene Hoshiko)

Tamiyuki Kihara

[東京 23日 ロイター] - 26日からの東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議を皮切りに、高市早苗首相は重要な外交日程に臨む。27─29日のトランプ米大統領訪日に目が向きがちだが、「ヤマ場は日中首脳会談」との声が政府内から上がる。難しい中国との関係をうまくさばけるかどうかが、「高市外交」に対する国際社会からの評価に影響するとの見立てだ。

日本政府は今月末に韓国で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の場で、高市氏と中国の習近平国家主席との首脳会談開催を模索している。「APECは年に1回の貴重な機会だ。ここを逃すと当面、首脳会談は難しい」と、政府関係者は話す。実現すれば石破茂前首相が出席した昨年の同会議以来、1年ぶりとなる。

日本が日中首脳会談の実現を重視するのは、地域の安定を図る狙いに加え、中国との関係が日本と他国との関係にも影響を与えるためでもある。前出の関係者は「他国は習氏が日本にどう接するかを注視している」とし、「日本が中国と対等に交渉できる国であることが、東アジアでの日本の存在感を高める」と強調する。

日中は尖閣諸島(中国名:釣魚島)問題、ロシアとの接近、海洋進出の継続、人権問題など多くの課題を抱えつつも、人的交流や経済的なつながりは依然として深い。日本の外務省関係者は、安全保障の観点からも「決定的な対立は絶対に避けなければならない国」と話す。福島第1原子力発電所からの処理水放出を理由とした中国による水産物の輸入禁止措置は福島や群馬など10都県を対象に継続中で、全面解禁に向けた交渉を前進させるための重要な機会でもある。

追加関税や対ロシア政策などをめぐって米中関係の緊張が高まる現状は、地政学的にも両大国の中央に位置する日本が外交力を期待される場面でもある。

キヤノングローバル戦略研究所(IGS)の峯村健司・上席研究員は「高市政権にとって対中外交が最も重要だという指摘はその通りだ」とした上で、「日中関係は米中関係の従属変数だ。米中が良いと日中が悪化する。その意味で、石破茂政権は当初関係構築に苦労していたものの、米中のバランスを取って比較的関係改善が進んだとみている。米中対立は足下でも続いており、日中関係を回復基調にもっていけるチャンスは続いている」と指摘する[L6N3W4052]。

ロイターは日本政府が高市首相と習国家主席の会談を調整していることについて外務省に確認を求めたが、期限までに回答を得られなかった。

会談実現の障壁になり得るのが、保守的な政治思想を持つ高市氏が中国に強硬な姿勢を示してきたことだ。過去の閣僚在任中も8月15日や春秋の例大祭に靖国神社を参拝し、首相就任前の今月9日には中国の内モンゴル自治区の人権問題について「中国共産党による弾圧が続いていることに憤りを禁じ得ない」とのメッセージを関連集会に寄せ、中国外務省が反発した。

ただ、足元では高市内閣の動きに変化がみられる。官房長官への起用が内定していた木原稔氏が台湾訪問を見送ったほか、高市氏自身も今年の秋の例大祭に合わせた靖国参拝を控えた。前出の政府関係者は「日中首脳会談を実現するための判断だった」と明かす。

高市氏が首相に選出された21日、中国外務省の郭嘉昆副報道局長は記者会見で、「日本が中国と同じ方を向いて協力してくれることを望んでいる。歴史や台湾など重要な問題で政治的な約束を守り、戦略的互恵関係を全面的に推進していくことを望む」と語った。

キヤノンIGSの峯村氏は、「高市氏が対中戦略としてやらなければならないことは多い。ひとまず日中首脳会談が実現した際には、台湾や尖閣諸島問題で言うべきことは言いつつ、習氏と個人的な関係を構築できるかどうかが問われるだろう」とみる。

APECでは、日韓首脳会談の開催も調整されている。韓国大統領府の報道官は21日、高市氏と李在明大統領との会談実施に向け、実務者レベルで協議していると明らかにした。高市首相自身も同日の就任会見で、韓国大統領と早期に会談することに期待を寄せた。

米ワシントンのシンクタンク、アジアグループの林由佳バイスプレジデントは、高市氏のタカ派的な姿勢が中国、韓国との軋轢(あつれき)を生む可能性があると指摘する。一方で、「実際には現実路線で控えめに政策を進める可能性が高い」と話す。

(鬼原民幸 取材協力:杉山聡 編集:久保信博)

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