ニュース速報
ワールド

焦点:ウクライナ、停戦合意で達成した「当座の目標」 根本は未解決

2025年03月13日(木)12時10分

 3月12日、 ウクライナは米国が示した30日間の停戦案を受け入れることで当座の重要な目標を達成した。写真はロシア軍の攻撃で破壊されたクリブイリフのホテル。同日撮影(2025年 ロイター/Mykola Synelnykov)

Tom Balmforth Max Hunder

[ロンドン/キーウ 12日 ロイター] - ウクライナは米国が示した30日間の停戦案を受け入れることで当座の重要な目標を達成した。中でも、トランプ米大統領との関係を修復できたことは大きい。しかし、ロシアとの紛争の根本的な問題は今もなお解決を見ていない。

米政府は11日、サウジアラビアのジッダで行われた8時間余りに及ぶ協議後、ウクライナへの軍事支援や機密情報の共有を即時再開し、ウクライナは大きな成果を手にした。米国はウクライナの合意した暫定的な停戦案をロシアに示すと発表。実現はロシア次第だとの認識を示し、高まるばかりだったウクライナへの圧力は和らいだ。

ウクライナのゼレンスキー大統領の外交顧問を務め、今回の協議にも加わったイーホル・ジョウクヴァ氏によると、ウクライナ代表団は複数の案を用意して協議に臨み、その中には空域と海域に限って停戦する「部分的停戦」案も含まれていた。

ジョウクヴァ氏によると、会談中に米国から広範な停戦の提案があった。ゼレンスキー氏が12日に記者団に語ったところによると、ウクライナ側は協議を一時中断して代表団が指導部と協議し、その後この提案に同意したという。

ジョウクヴァ氏はロイターの電話取材で「われわれにとっては、2つの重要な要素と同時に停戦を進めるという方針について理解を得ることが非常に大事だった。その要素とは軍事支援と情報共有の一時停止の即時解除だった」と振り返った。その上で、米国がこうした一時停止措置を即座に解除したことが今回の会談と共同声明における「最も重要な成果」の一つだとした。

今回の会談について、全体的な雰囲気が「建設的」だったと評価。ウクライナと米国は二国間関係を修復しただけでなく、対等なパートナーとして共同で行動する間柄になったと強調した。

また、ジョウクヴァ氏は、今回の会談では領土に関する議論がほとんど取り上げられず、停戦は和平プロセスの第一歩にすぎないとの認識も示した。「ウクライナは決して領土を譲らない。極めて単純だ。そのような声明や宣言はあり得ない。なぜなら、それには憲法の改正が必要だからだ」と訴えた。

<根本的問題は未解決>

一方、2019年から20年まで国防相を務めた軍事アナリストのアンドリー・ザゴロドニュク氏は、米国との関係が顕著に改善したことを成果に挙げつつ、根本的な問題は未解決だと指摘した。米国がロシアとの直接的な外交交渉を開始し、ウクライナ戦争に関する政策を大きく転換してから数週間が経過したが、その状態は今でも変わらないとの立場だ。

「ロシアが和平と引き換えに何を求めるのか、まだ分からない。米国がウクライナの立場を支持するのか、それともウクライナの主張は基本的にロシアほど重要ではないと考えるのか、それも分からない」と言う。

英王立国際問題研究所チャタム・ハウス9のロシア・ユーラシア・プログラムの上級コンサルティングフェロー、キール・ジャイルズ氏も同じ見方だ。「今の前線を固定することは、戦争が本当に終結するという長期的な保証のないままロシアに利益を与えてしまうリスクを伴う。それによってロシアが現在支配している地域が事実上恒久化された支配地域となり、紛争が解決されるのではなく凍結されることになりかねない」と話す。

ロシア政府は12日、米国からの停戦提案の詳細を待っていると発表した。一方、ロシア政府高官筋は、合意にはロシアの進軍状況が考慮され、ロシアの懸念が反映されるべきだと述べた。

しかし、ウクライナ政府に近い消息筋によると、協議後のゼレンスキー陣営の雰囲気は前向きで、ロシアが停戦提案に不意を突かれたとの感触だったという。この消息筋は「これはチェスにおける強力な王手だ」と述べた。

匿名を条件に取材に応じた元ウクライナ高官の安全保障関係者は和平プロセスについて、ここまでの展開は予測した通りだと語った。「しかし、おそらくロシアはこの合意を破綻させるだろうし、その際の米国の反応を見極める必要がある」と指摘。「ロシアが挑発的な行動を取り、トランプ氏を怒らせるかもしれない。そしてその時にこそ強力な軍事支援を手に入れるチャンスが生まれる」と述べた。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ

ワールド

フィリピン、大型台風26号接近で10万人避難 30
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中