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アングル:米で「保育の無償化」計画、母親の就業促進効果に期待

2021年12月20日(月)09時03分

12月14日、バイデン米大統領の看板政策の一つである気候変動・社会保障関連歳出法案「ビルド・バック・ベター(よりよき再建)」には、全国一律の就学前教育を無料で提供するという、生活の一変につながる可能性のある計画が含まれている。写真は2014年1月、ニューヨークのマンハッタンで子どもを引率する教師(2021年 ロイター/Adrees Latif)

Jonnelle Marte

[14日 ロイター] - バイデン米大統領の看板政策の一つである気候変動・社会保障関連歳出法案「ビルド・バック・ベター(よりよき再建)」には、全国一律の就学前教育を無料で提供するという、生活の一変につながる可能性のある計画が含まれている。実現すれば、特に母親を中心に、外で働きやすくなる親も出てくるだろう。

ホワイトハウスの経済政策顧問らは、これから先、母親を中心とする女性が労働現場に復帰することが、コロナ禍からの経済復興と成長加速の鍵になると主張してきた。

米国の労働市場はパンデミック前の方が活況だったが、危機の最中に失職したまま仕事に戻っていない米国民は何百万人もいる。

3-4才のすべての子どもを対象として、自由参加型で無料の就学前教育が提供された場合、どの程度の数の母親が労働現場に復帰するかを正確に見積もることは難しい。だが、過去の例がある程度は参考になろう。

一般に5才の子どもを対象とする教育機関である幼稚園は、20世紀前半に公立学校システムに組み込まれていった。だが、幼稚園がすべての州で無料または補助金の対象となるには、1980年代まで待たなければならなかった。

研究者らは、就業の拡大が最も多かったのは、5才の子どもがいて、それより幼い子どもはいないシングルマザーだったと指摘している。

ダートマス大学のエリザベス・カスキオ教授(経済学)は、幼稚園・就学前教育制度の拡大が労働市場に与える影響を研究している。同教授は、該当する年齢の子どもがいて現在は働いていない親にとって、幼稚園以前の保育の無料提供が労働参加へのインセンティブになることには「異論の余地はない」と話す。「そのインセンティブがどの程度かが問われるだけだ」

<対象となる子どもは数百万人>

全米教育統計センターによれば、米国の3-4才児のうち、2019年に保育施設に通っていた子どもは約半分の約400万人だった。

11月に連邦下院で可決された「ビルド・バック・ベター」歳出法案では、全国一律・自由参加の就学前教育の予算として、6年間で1090億ドル(12兆4000億円)を割り当てている。ペンシルベニア大学ウォートン・スクールの研究者らによる試算では、すべての州で全日制就学前教育が提供されれば、利用する子どもは130万人増えるという。

民主党は、クリスマスまでに同法案を上院で可決したいと考えている。

前出のカスキオ教授の調査結果では、米国各州が公立幼稚園制度を展開していた1950年から90年にかけて、5才の子どもがいて、それより幼い子どものいないシングルマザーのうち、約40%が子どもを入園させた後で働きに出たことが分かっている。

配偶者のいる母親、5才未満の子どものいる母親はでは、就業状況に顕著な変化は見られなかったとカスキオ教授は言う。

労働年齢の主力である25-54才の女性の労働参加率は、1960年の42%から2000年には77.3%に上昇したが、その後わずかに低下した。母親たちの間には、公立の幼稚園・保育園があれば、職場復帰も容易になるだろうという声がある。

ジョージア州サバンナのエレン・レイノルズさん(39)は2019年夏、息子を出産する直前に歯科助手の職を辞めた。来年3歳になる息子を私立の保育園に入れることを夫とともに検討したが、どの園でも週150ー400ドルの費用がかかる。レイノルズさんがかつて得ていた給与の3分の2が消えてしまう額だ。

全日制の保育園を無料で利用できれば、来年から職場復帰することも経済的には可能になる、とレイノルズさん。「家族から離れるのであれば、それだけの時間を費やす価値があってほしい」と彼女は言う。

<ワシントンDCの成功例>

ワシントンDCでは、さらに思い切った改革が行われた例がある。2009年、2年間の全日制保育の提供を開始したのだ。

その後の数年間にわたり、4歳児の入園率は2008年の68%から17年の88%へと上昇した。全米幼児教育研究所のデータでは、3歳児についても66%と倍増したことが分かっている。

ワシントンDCでは、5歳以下の子どもが少なくとも1人いる母親で、就業中または求職活動中の比率(労働参加率)は、改革前の約65%から76.4%に上昇した。ワシントンのリベラル系非営利団体(NPO)「アメリカ進歩センター」で幼児政策担当ディレクターを務めるラシード・マリク氏が分析したところ、労働参加率上昇分のうち、10ポイントは保育体制拡大によるものだった。

「保育施設を見つけ、通わせ続けるための経済的ストレス、心理的ストレスを緩和することにより、母親が外で働くことはかなり楽になる可能性がある」とマリク氏は語る。

カスキオ教授とノースウェスタン大学のダイアン・ウィットモアーシャンゼンバッハ氏による研究によれば、1990年代末に一律の就学前教育制度を導入したオクラホマ州とジョージア州では、労働参加率に与える影響はもっと小さかった。

ペンシルベニア大学ウォートン・スクールのダニエラ・ビアナコスタ、マディソン・アーバビアン、ユーラン・ウー各氏の分析では、全米規模でユニバーサルな就学前教育が提供された場合、就学前の子どもがいる低所得層の母親の労働参加率は平均29%上昇する可能性がある。

3氏は、「こうした政策はGDPに対する長期的な効果は小さいが、特定の人口層の福祉を改善する」と指摘している。

無料の全日制保育制度を提供していない地域でも、共稼ぎでなくても家計を維持できるような生活費の安い地域では、影響が小さめになる可能性がある、と前出のマリク氏は言う。

共和党優位の州では就学前教育の拡大に参加しないことを選択し、多くの子どもを就学前教育から締め出してしまう可能性がある。

(翻訳:エァクレーレン)

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