ニュース速報

ワールド

焦点:重症化予防だけじゃない、米当局が追加接種を推す理由

2021年09月18日(土)11時53分

 9月15日、新型コロナウイルスワクチンの3回目の接種(ブースター接種)を準備している米当局者らは、追加接種が重症化や死亡だけでなく、軽症の感染も防ぐことに期待している。ニューヨークで8月18日撮影(2021年 ロイター/David 'Dee' Delgado)

[シカゴ 15日 ロイター] - 新型コロナウイルスワクチンの3回目の接種(ブースター接種)を準備している米当局者らは、追加接種が重症化や死亡だけでなく、軽症の感染も防ぐことに期待している。理論上、軽症者が減ればウイルスの感染も抑えられ、米国の回復が早まる可能性があるからだ。当局はこれまで、追加接種のこの目的についてはあまり明確に発言してこなかった。

バイデン米政権のファウチ首席医療顧問はロイターの電話インタビューで、「それが(追加接種の)一番の理由になってはいないが、実は非常に有益な副産物になるかもしれない」と述べた。

ファウチ氏は追加接種を進める主な理由について、ワクチン接種を完了した人が感染する「ブレークスルー感染」の増加傾向を反転させることだと述べた。この点については、多くの専門家が異議を唱えている。

入手可能なデータによると、重いブレークスルー感染の大半は、65歳以上か免疫不全の人々の間で起きている。後者のグループについては既に追加接種が推奨されている。

フレッド・ハチンソンがんセンターのウイルス学者、ラリー・コリー氏は、追加接種によって感染そのものを防ぐのに十分な水準まで抗体レベルを高めることを提唱している。コリー氏は米政府が支援するワクチン試験接種の監督に携わっている。

コリー氏は「感染しなければ他者にうつすことはなくなる。より有効にこの疫病を未然に防げるようになり、経済的な恩恵をもたらす」と述べた。

ただ多くの専門家は、追加接種が実際に感染と伝染を防ぐことを示す科学的根拠は乏しいと指摘している。

一部の政府研究によると、ワクチンの完全接種を終えた人でも、デルタ変異株に感染すると他者にウイルスをうつすことがある。うつるのはワクチン未接種の人々がほとんどだ。

ファウチ氏は「米国のエビデンスを見ると、感染、そして軽症・中等症を防ぐ効果が薄れつつあるのは非常に明らかだ」と述べた。

米国では、さまざまな母集団を対象とした調査でこうした現象が見られている。13の州および大都市で感染者60万人を対象に最近実施された調査もこの中に含まれる。「劇的な結果とは言えないにしても、十分なデータだ」とファウチ氏は言う。

<ゴールは何か>

米国では接種資格のある人々の約63%が2回目の接種を終えたが、デルタ株の出現により、未接種者の間で感染による死亡者が急増している。

米国で最も広く利用されているファイザーとビオンテックの共同開発ワクチンと、モデルナのワクチンは有効性が非常に高いが、デルタ株に対する有効性は従来株の場合に劣る。接種完了者の間でも感染者が増えており、中には重症化したり死亡したりするケースもある。

米疾病対策センター(CDC)のワレンスキー所長、ファウチ氏、米政府の新型コロナウイルス対策調整官を務めるジェフ・ザイエンツ氏の3人は、ホワイトハウスで毎週行われている新型コロナについての説明会で、イスラエルのデータを引き合いに、ワクチンによる軽症予防効果の減退は、重症化、入院、死亡を防ぐ効果の低下につながりかねないとの懸念を示した。

追加接種プログラムを開始した、あるいは計画中のイスラエルや英国などの国々は、感染自体を減らすという目的をもっと率直に打ち出している。英国は50歳以上の人々などを対象に追加接種を計画している。

しかし米国ではウイルス学者らの大半が、重症化・入院を防ぐワクチンの効果が低下しているという説に納得していない。

世界保健機関(WHO)と米食品医薬品局(FDA)の科学者らは英医学誌ランセットに13日に掲載された論文で、より多くの科学的根拠が必要だとして一般の人々への3回目の追加接種に異を唱えた。感染の大半は、未接種者が広げたものだとも指摘している。

ペンシルベニア大学の感染症専門家、ポール・オフィット氏は「問題は、何がゴールかということだ。3回目の接種のゴールが重症化予防効果を高めることであるなら、その点が問題になっていることを示す科学的根拠は存在しない」と指摘。無症状の感染者と軽症者を減らすことを目的に、中和抗体のレベルを高めるのがゴールであれば、「そうしたデータを検証する必要がある」と述べた。

ウイルス学者のコリー氏は、ワクチンが感染拡大を防ぐことを証明するのはハードルが高いと言う。「今現在、(他者を感染させるのを防ぐ)証拠があるか。いや、無い。しかし(防ぐ)可能性と、それが有益かもしれないと信じる根拠には事欠かない」と述べた。

しかしファウチ氏は、イスラエルの追加接種開始後のデータを見ると、「実行再生産数」が低下し始めていると指摘する。実効再生産数は1人の感染者が何人に感染させるかを示すもので、集団全体の免疫が上がるほど低下する。

ファウチ氏は、追加接種は重症化と入院、死亡を防ぐ場合にだけ必要だ、というワクチン専門家の主張に当惑している。「入院に何か魔法や神秘でもあるのだろうか。理解できない。入院患者を減らすこと以外、一切関心がないと言いたいのだろうか。うそでしょう。ご冗談を」とファウチ氏は語った。

(Julie Steenhuysen記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CB景気先行指数、8月は予想上回る0.5%低下 

ワールド

イスラエル、レバノン南部のヒズボラ拠点を空爆

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中