ニュース速報

ワールド

アングル:女性の経済政策リーダー続々、コロナ禍克服へ新風

2021年04月10日(土)09時34分

 4月6日、米国のバイデン新政権では多くの女性が経済関連の閣僚や要職に就き、米経済の回復に取り組んでいる。写真は欧州中央銀行(ECB)総裁のクリスティーヌ・ラガルド氏。2020年2月、仏ストラスブールで撮影(2021年 ロイター/Vincent Kessler)

[ワシントン 6日 ロイター] - 米国のバイデン新政権では多くの女性が経済関連の閣僚や要職に就き、米経済の回復に取り組んでいる。

バイデン政権は財務長官にジャネット・イエレン氏、商務長官にジーナ・レモンド氏、通商代表部(USTR)代表にキャサリン・タイ氏が就任したほか、経済顧問の多くで女性を起用。承認を受けた閣僚級ポストで女性の占める比率が48%近くに達した。

こうした「潮目の変化」は、すでに経済政策に影響しているかもしれない。バイデン政権が先に発表した総額2兆3000億ドル(約252兆4400億円)の「米雇用計画」では、自宅やコミュニティーで子供や高齢者を世話する職を支援するために4000億ドルが充てられた。こうした職種は通常、女性が担う仕事とされ、そのほとんどはこれまで正当に評価されてこなかった。

米雇用計画は過去の経済、通商、労働政策によって作られた人種的、地域的な不平等の是正にも数千億ドル余りの資金を割り当てている。

<「経済の構造問題の是正が始まる」>

イエレン氏は、「人的なインフラ」に焦点を当てる政策と先の1兆9000億ドル規模の追加経済対策が、女性と、そしてすべての人々に大きな改善をもたらすことは間違いないと言う。女性が全労働力に占める比率はコロナ危機前でさえ過去40年の最低水準に落ち込んでいた。

イエレン氏はツイッターに「最終的にこの法案は80年の歴史を作ることになるかもしれない。過去40年間でわれわれの経済に広がった構造的問題の是正が始まる。これはわれわれにとってスタートに過ぎない」と投稿した。

専門家によると、女性指導者は経済政策に新しい視点を持ち込むことができる。

ハーバード・ビジネス・スクールのレベッカ・ヘンダーソン教授によると、「グループの他のメンバーとは違う人物は、物事を異なる方向から見ることがたびたびある」。そうした人物は「異なる解決策に前向きな傾向を持つ」と同教授は指摘、それこそが今求められていることだという。教授は「われわれは重大な危機に直面している。新しい考え方が必要だ」と話した。

<共感と安定性>

過去半世紀で大統領か首相に就いた女性は57人だが、経済政策を決める組織は最近までほとんど男性が支配してきた。米国以外では、欧州中央銀行(ECB)総裁にクリスティーヌ・ラガルド氏、国際通貨基金(IMF)専務理事にクリスタリナ・ゲオルギエワ氏、世界貿易機関(WTO)事務局長にヌゴジ・オコンジョイウェアラ氏が就いているが、これらのポストは10年前にはいずれも男性が占めていた。

シンクタンクのOMFIFの年次報告によると、女性が財務相に就いているのは16カ国、女性の中央銀行総裁は14人だ。

入手可能な限られたデータによると、女性の方が危機の際に複雑な組織を運営する上で優れた実績を残している。

ゲオルギエワ氏は1月、IMFなどによる調査結果を引き合いに、「女性が関与している際のエビデンスは非常に明確だ。コミュニティーが改善し、経済は上向き、世界が良くなる」と述べた。

その上で「女性は優れた指導者になる。最も弱い立場にある人々に共感を示し、そうした人々のために物申すからだ。女性は決断力がある。女性は妥協を見いだすことにも、より前向きになることができる」と語った。

米国心理学会の研究によると、米国では女性知事の州が新型コロナウイルスによる死者数が男性知事の州よりも少なかった。またハーバード・ビジネス・レビューによると、昨年3月から6月に6万人の指導者を対象に実施した360度評価で、女性の方が大幅に高い得点を得た。

IMFの調査によると、金融機関の最高経営責任者(CEO)の女性比率は2%未満で、執行役員会メンバーに占める比率は20%未満だが、女性が経営している金融機関は財務の耐性と安定性がずっと優れていた。

国際連合の顧問で非営利団体幹部のエリック・ルコント氏によると、イエレン氏がキリスト教やユダヤ教の団体の指導者と先月行った会談は、従来とはっきりと違っていたという。

「財務長官とこの20年間会談してきたが、彼らの論点はそれぞれ完全に異なっていた。イエレン氏は話し合ったすべての分野で共感を強調し、最も弱い立場のコミュニティーに政策が与える影響を重視した」と言う。

男性の前任者たちは「確実な事実のみ」に基づくアプローチを取り、最初に「人々ではなく数字」に焦点を当て、「弱者」といった言葉を使うことは一切なかったと言う。

<「リセッション」でなく「シーセッション」>

女性指導者の持つ意味は大きい。

エコノミストの多くは、新型コロナ流行による世界的な景気後退(recession)は実際には「シーセッション(she-session)」だと指摘している。コロナ禍で大きな影響を受けたのは女性だからだ。

マッキンゼーの最近の調査によると、女性は世界の労働力に占める割合が39%だが、失われた雇用に占める比率は54%だった。米国ではコロナ危機で消えた1000万の雇用の半分以上が女性で、労働市場から退出した女性は合わせて200万人を超える。

IMFの試算によると、このような女性が復職した場合の国内総生産(GDP)の押し上げ効果は米国で5%、日本で9%、アラブ首長国連邦(UAE)で12%となり、インドでは27%にも達する。

ゲオルギエワ氏は6日、IMFは医療、教育、社会保障、女性の権利促進など、これまで無視されてきた課題に各国が重点的に復興資金を充てるよう、量的な目標を設けたと説明。「そうしなければ不公平が悪化する恐れがある」と述べた。

世界銀行の首席エコノミスト、カーメン・ラインハート氏はロイターの取材で、女性指導者の増加が、「コロナが残す非常に多くの課題において、本当の意味でよりインクルーシブな(一体となった)対応につながる」と述べた。

有色人種女性初のUSTR代表となったタイ氏はスタッフに対して、「既存の枠から出て」、多様性を取り入れ、長い間ないがしろにされてきたコミュニティーと対話するよう呼びかけた。

アフリカ出身者として初めてWTOのトップに就いたオコンジョイウェアラ氏は、女性の必要性に対処することは、各国政府や国際機関における深刻な信頼失墜の立て直しに向けた重要な一歩だと指摘。「これまで通りのやり方に埋没してはいけない。重要なのは人間であり、インクルーシビティ(誰もが参加できること)であり、普通の人々がまともな職に就けることだ」と述べた。

(Andrea Shalal記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

国連調査委、ガザのジェノサイド認定 イスラエル指導

ビジネス

英雇用7カ月連続減、賃金伸び鈍化 失業率4.7%

ビジネス

25年全国基準地価は+1.5%、4年連続上昇 大都

ビジネス

豪年金基金、為替ヘッジ拡大を 海外投資増で=中銀副
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中