ニュース速報

ワールド

アングル:USTR代表候補タイ氏を待ち受ける多くの難問

2021年02月26日(金)09時56分

 2月25日、 ジョー・バイデン米大統領が通商代表部(USTR)代表に指名したキャサリン・タイ氏(写真)の承認をめぐって、連邦議会上院での公聴会が開かれた。米議会で開かれた公聴会で代表撮影(2201年 ロイター)

Andrea Shalal David Lawder

[ワシントン 25日 ロイター] - ジョー・バイデン米大統領が通商代表部(USTR)代表に指名したキャサリン・タイ氏の承認をめぐって、連邦議会上院での公聴会が25日に開かれた。承認後には、山積する課題が同氏を待ち受けている。

同盟諸国、グローバル企業、国内産業と労働団体は、ドナルド・トランプ前大統領による「米国第一」の通商政策がもたらした混乱にタイ氏がどう対処するのか、固唾を呑んで見守っている。

主な課題を見ていこう。

<欧州と対立する航空機補助金>

2004年以来、米政権は4代続けて欧州と航空機メーカーへの政府支援をめぐって論争を展開してきた。世界貿易機関(WTO)の裁定を経て、米国・欧州連合(EU)は双方とも数十億ドル相当の航空機、食品、ワインの輸入に関税を課している。

外食・酒販産業は、タイ氏に欧州と妥協し関税措置を解除するよう求めるだろうし、米国有数の輸出企業であるボーイングは、「737MAX」の引き渡しを再開するに当たり、自社製航空機に対する欧州の関税が解除されることを願っている。

米国、あるいは欧州連合が航空機に対する新たな補助金を認めるべきかどうか、という別の難問もある。またブラジルは現在、WTOの枠外で新たな合意を推進しようとしている。

一方で、これまで農産物輸入、鉄鋼・アルミ関税をめぐって停滞していた包括的な米欧間の貿易交渉は後回しになりそうだ。

<WTO改革>

WTOは、中国の貿易・補助金慣行をコントロールできていないとして広範な批判を浴びている。その現状を是正するWTO改革に米国がどう取り組むか、タイ氏の采配が問われている。

次期WTO事務局長の選出をめぐっては、バイデン政権がトランプ前政権による反対方針を覆し、ナイジェリアのヌゴジ・オコンンジョイウェアラ氏が3月1日に就任する道が開かれた。

WTO関連でタイ氏が最初に迎える問題の1つが、貧困地域におけるワクチン生産を加速するために、インドと南アフリカが求めている一時的な知的財産権ルールの適用除外を支持するかどうかという判断だ。この措置は米国産業を動揺させる恐れがある。オコンジョイウェアラ氏は、富裕国による「ワクチン・ナショナリズム」に警鐘を鳴らしている。

グローバルな通商問題を司る最高裁判所とも言えるWTO上級委員会は、トランプ氏が後任委員の任命を拒否したことで機能不全に陥っていた。タイ氏は任命拒否の決定を見直すと予想されるが、WTOの紛争解決プロセスを再構築するには時間がかかるかもしれない。

<漁業補助金>

WTO加盟国は、世界の水産資源に大きなダメージを与えた漁業補助金の削減に向けた合意を2020年末までにまとめる予定になっていたが、実現しなかった。

1995年の発足以来、WTOが成立させた新規の貿易協定は1件しかない。もし漁業補助金削減の合意がまとまれば、WTOが魚を救うのではなく、魚がWTOを救ったことになるだろう、というのがWTO関係者の口にする冗談だ。

<英国のEU離脱(ブレグジット)>

英国が欧州連合を離脱した後、英国と米国は昨年、新たな2国間貿易協定に向けて公式の協議を開始した。

トランプ政権は、分野を絞った「ミニ」貿易協定を提案していたが、タイ氏がこれを継承するのか、あるいはもっと包括的な合意をめざすのかは定かではない。

<ファストトラック法の更新>

大統領にいわゆる「ファストトラック」による交渉権限を与える貿易促進権限法(TPA)は7月1日に期限切れとなるが、その更新に向けた連邦議会との交渉においても、タイ氏が先頭に立つことになる。この権限がなければ、包括的な貿易交渉はほぼ不可能になる。

連邦議会で優位に立つ民主党は、労働・気候変動に関して新たな基準を求めるだけでなく、貿易政策の策定においても議会の関与を強めたいとししている。民主党の連邦議会スタッフだったタイ氏は、議会との協議無しに貿易交渉を進めようとするトランプ氏の動きに苛立っていた。

<デジタルサービス税>

ジャネット・イエレン財務長官は、テクノロジー企業を対象としたグローバル税制に関する多国間協議に復帰することを約束している。これは主要7カ国(G7)当局者はその交渉を2021年半ばまでにまとめたいとしている。

トランプ政権はフランスによるデジタルサービス税について、米テクノロジー企業に対する差別的待遇だと反発し、フランス製品を対象とする関税の導入をちらつかせた。英国、オーストリアその他4カ国とも同様の問題を抱えていた。

<対中国関税>

タイ氏のチームは、米中貿易協定の「フェーズ1」合意を評価する必要にも迫られている。2020年、中国による米国製品・サービスの購入額は、合意で定められた目標に比べ42%も足りなかった。

米国企業は、中国製品約3700億ドル(約39兆387億円)相当に対する関税を緩和することと引き替えに、中国の自国産業に対する補助金や非関税障壁の撤廃、知的財産権の保護拡大を求めている。

バイデン政権の当局者は、中国製品に対する関税は当面維持されると述べ、中国の「不適切な」貿易慣行を変化させるため、同盟国と協調して中国への圧力を強めることを約束している。

<日本及びケニア>

一方、連邦議会議員と米作農家は、包括的な日米貿易協定について対日協議を開始するよう政権に働きかけている。トランプ政権が締結した小規模な協定は、とうてい満足の行くものではなかった。

またトランプ政権のもとでケニアとの2国間貿易協定の交渉も始まっていた。これがアフリカ諸国全般との新たな協定のひな形になる可能性もある。

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中