ニュース速報

ワールド

アングル:「厳冬」の中国映画産業、新型肺炎の寒風が追い打ち

2020年02月15日(土)08時41分

中国の映画産業は、厳しい検閲、脱税の取り締まり、政府による新たな規制が、この業界で働く人々の雇用機会を奪ってきた。写真は2018年4月、山東省青島の映画館で撮影(2020年 ロイター/Aly Song)

Pei Li Brenda Goh

[北京/上海 7日 ロイター] - 中国の映画産業は、新型コロナウイルスの感染が拡大する前からすでに「厳しい冬」と呼ばれる惨状を呈していた。厳しい検閲、脱税の取り締まり、政府による新たな規制が、この業界で働く人々の雇用機会を奪ってきた。

新型肺炎は、この惨めな状態に拍車をかけたに過ぎない。

感染拡大を食い止めるため、中国全土の映画館は閉鎖され、大ヒットが期待されていた新作映画7本が、春節(旧正月)休暇に予定していた封切りを延期、あるいは中止した。

春節連休入り前日の1月24日、政府が大勢の人が集まる催しを見送るよう警告して以来、中国の映画興行収入は無きに等しい状態だ。業界団体は俳優らに、通知があるまで仕事に復帰しないよう要請した。

音楽プロダクション兼投資会社、太合娯楽集団のQiu Hongtao副社長は「中国の今年の興行収入は、コロナウイルス感染拡大の影響で昨年の半分に落ち込むだろう。危険が去るまで、だれも映画館には行かない」とロイターに話した。

「相当多くの映画館がつぶれるだろう。俳優や女優は仕事が無くてもなんとかやっていくしかないが、映画館は賃料や運営費の負担に押しつぶされる」──と予測した。

新型肺炎の拡大を受け、一部の製作会社は異例の措置に出て物議を醸している。

歓喜伝媒集団<1003.HK>は、新作の製作費として6億3000万元(9000万ドル)を拠出してもらうのと引き替えに、大ヒットが期待されていたコメディー映画「ロスト・イン・ロシア」を北京字節跳動科技(バイトダンス・テクノロジー)のオンライン・プラットフォーム上で無料で公開。中国の映画界では、これに怒りの声が巻き起こった。

武道コメディー「燃えよデブゴン」の製作会社も同様の措置を取り、動画配信サービス大手 iQiYi(アイチーイー・爱奇艺)は、無料でオンライン公開すると発表した。

<検閲の痛み>

テンセント・エンターテインメントが今年1月に公表したリポートによると、昨年はチケット価格の上昇によって興行収入が640億元(92億ドル)と過去最高を記録したものの、映画館の平均稼働率は過去5年間で最低だった。

政府が基本的に主要外国作品の公開を年34本に制限しているため、市場を支えるには国内の映画製作が頼みの綱だ。しかし、検閲の強化で国内作品も急減している。

習近平国家主席の下、活動家の弾圧、インターネット規制、監視拡大といった社会統制強化の一環として「社会主義核心価値観」に反するコンテンツは、2017年から禁止されている。

業界筋によると、中国建国70周年だった昨年は、特に検閲に対してピリピリしていた。報道によると、少なくとも15本の映画が回収あるいは公開延期、修正を迫られた。

最も大きな犠牲となったのは、クワン・フー(管虎)監督が8000万ドルの予算をかけて製作したとされる第2次世界大戦の叙事詩的作品「ザ・エイト・ハンドレッド」だ。昨年6月に公開が予定されていたが、引退した中国共産党の元幹部らから、台湾に逃げた仇敵・国民党を英雄視しているとの苦情が出て土壇場で、上映中止となった。

製作にさえこぎ着けられない映画もある。北京光線影業<300251.SZ>と北京京西文化<300251.SZ>は昨年、ともに23作品の公開を予定していたが、北京光線影業は11本、北京京西文化は9本しか公開できなかった。

創作の自由はすっかり萎縮し、中国の歴史ある映画祭、中国独立影像展は1月、無期限に活動を中止すると発表した。主催者は「本当に純粋なインディペンデント精神を持つ映画祭の開催は不可能だ」と語った。

21年には中国共産党創設100周年を控えているため、近い将来に検閲が緩くなることは期待できない。

給与に関する新規則の導入や、超有名俳優らによる税金対策への厳しい監視も業界を揺らしている。人気映画俳優、范冰冰(ファン・ビンビン)さんは脱税で1億2900万ドルの罰金を科された。

国内メディアの推計によると、こうした中で昨年は国内の映画製作会社1900社近くが破綻した。

中国人俳優Li Binさん(37)は、「厳しい冬」が自身と他の俳優らの仕事に対する姿勢を変えたと言う。

「今だと、だれかから脚本を与えられて台本を手にした瞬間、最初にやるのは撮影不可能な部分を探すことだ。ストーリーはあまり気にしない。それより脚本が検閲を通るか、投資家が資金を回収できるかが気にかかる」

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 5
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中