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アングル:下げ止まらないトルコリラ、中銀の想定シナリオ
8月9日、トルコリラの値下がりが止まらない。エルドアン大統領が金融政策に影響力を行使する姿勢や、米国との関係悪化が懸念されているためだ。写真はリラ紙幣。イスタンブールで昨年10月撮影(2018年 ロイター/Murad Sezer/Illustration)
[アンカラ 9日 ロイター] - トルコリラ
今年に入ってリラの対ドル下落率は25%を超え、中央銀行が5月に緊急利上げに動いたにもかかわらず、その後リラ売りは加速。通貨危機が国内の銀行システムや企業の債務、経済全般に及ぼす悪影響に不安が高まっている。
以下に中銀が今後どのように対応するかについていくつかのシナリオを記した。
(1)口先介入
最も安易で、それだけに効果が一番薄い方策の1つだ。中銀のチェティンカヤ総裁とエルドアン氏の娘婿のアルバイラク財務相は、公式発言を通じて市場鎮静化を目指す可能性がある。
こうした戦術は市場混乱時に当局者がしばしば用いるが、エコノミストは、せいぜいリラを一時的に押し上げるのが関の山だと話した。キャピタル・エコノミクスのウィリアム・ジャクソン氏は「口先介入以外が必要になる局面が訪れる」と警告した。
(2)次回会合まで沈黙を維持
中銀は9月13日の次回会合まで何も動かないこともあり得る。ただここ数日の値動きを参考にするなら、中銀が静観したままではリラの下げがさらに進み、投資家の中銀に対する信頼感は一段と低下する。
一方、エルドアン氏が足元で沈黙しているのは状況悪化を防ぐ上で役立っている。エルドアン氏は以前、リラ売りを西側諸国がトルコを屈服させるために行っていると主張していた。
(3)規制緩和
トルコでは全ての銀行はリラ建てと外貨建ての一定の準備金保有が義務付けられている。中銀はこの準備金の基準を緩和し、市場に出回る外貨を拡大することができる。それによって外貨の流動性が十分もしくは過剰となり、リラの値動きを落ち着かせられる。
中銀は5月に基準緩和で100億ドル相当の外貨を間接的に市場に供給してリラ安を食い止めようとしたものの、結局は計300ベーシスポイント(bp)の利上げを余儀なくされた。
また今週6日にも同様の措置を通じて22億ドルの外貨を市場に流し込んだ。
ただこうした準備率引き下げは、中銀に独立性がないとの見方を強めるだけで逆効果だとエコノミストは指摘する。
トルコの著名エコノミストはツイッターに「市場が中銀は利上げできないという印象を持っているのでリラが急落した。準備率をまったく変更しない方が事態はずっと良くなっただろう」と苦言を呈した。
(4)大幅利上げと強力なメッセージ
中銀が大幅な利上げに踏み切るとともに、独立性を保って物価上昇に対処するため長期間高金利を続けられるというメッセージを送る──。これは投資家にとって最善のシナリオで、リラを下支えする上で大きな効果が期待できる。
キャピタル・エコノミクスのジャクソン氏の話では、投資家は恐らく実質金利が5─10%になることを求めており、つまり物価上昇率が16%近くである点を考えると、政策金利は20%を上回る水準にしなければならない。現在の政策金利
もっともジャクソン氏は、利上げ幅よりも付随するメッセージの方がより重要で、非常に長期間高金利が維持されると展望できる形が望ましいと強調した。
(5)複雑な枠組み復活
中銀が複数の金利を駆使する複雑な金融政策の枠組みを復活させ、主要政策金利を据え置きながら、「後期流動性窓口貸出金利」を再び引き上げる恐れがある。ただしこれは現実味が乏しい。中銀がせっかく成し遂げた金利の一本化が水の泡になるからだ。複数の金利による政策運営は、長い目で見て市場の信頼を損なう。
(6)ドル売り
中銀の外貨準備が少ない以上、最もありそうにない。現在リラ買いに使えるのは約210億ドル程度。全ての準備金と財政資金を合計すると1000億ドルになる。
また中銀は、世界の金融政策の中で直接為替介入はもはや適切な選択肢でなくなっているとも表明。他の新興国の中銀と同様、直に外貨準備を減らすことがないオプション取引などを利用して相場に影響を及ぼす手法を好んでいる。
(7)資本規制
政治家も中銀も、資本規制は検討対象になっていないと明言している。もし資本規制が導入されれば、かつて新興国市場のスターだったトルコに対する投資家の信認を損なってしまうだろう。