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焦点:中国、「ブラックテクノロジー」で高度な監視国家構築へ

2018年03月18日(日)11時02分

 3月10日、北京郊外の幹線道路に設けられた検問所では、地元警察官が新しいセキュリティツールを試している。写真は運転者の顔の特徴と車のナンバープレートを読み取り、即座に犯罪容疑者のデータベースと照合する「スマートメガネ」を製造したLLビジョンのWu Fei CEO。2月撮影(2018年 ロイター/Thomas Peter)

Pei Li and Cate Cadell

[北京 10日 ロイター] - 北京郊外の幹線道路に設けられた検問所では、地元警察官が新しいセキュリティツールを試している。それは、運転者の顔の特徴と車のナンバープレートを読み取り、即座に犯罪容疑者のデータベースと照合する「スマートグラス」だ。

人工知能(AI)を利用したこのメガネはLLビジョンが製造。車中の人物の顔とナンバープレートをスキャンし、中央で集約されたブラックリストと一致すれば、赤い警告表示が点灯して、メガネを着用した警察官に知らせる。

今回のテストは、今年の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が北京中心部で開催される時期と一致しており、中国指導部が、テクノロジーを利用した国内治安強化に向けて本格的に動いていることを裏付けている。

こうした動きは、中国が高度な監視国家を築きつつあり、異議申立てに対する弾圧を強めるのではないかという懸念が広がっている。

「(中国)指導部は以前、インターネットと通信テクノロジーの発展にかなりの恐怖感を抱いていた」と、香港大学のメディア研究プロジェクト「中国メディアプロジェクト」の共同ディレクターを務めるデビッド・バンダースキー氏は語る。

「だが今や彼らは、それらを社会や政治を統制するため、絶対に不可欠のツールだとみなすようになった」

LLビジョンのWu Fei最高経営責任者(CEO)は、中国当局は容疑者や脱法者を捕まえるという「崇高な目的」のためにこの装置を使っているため、プライバシーの問題を懸念するべきではないと語った。

「われわれは政府を信頼している」と同CEOは北京本社でロイターに語った。

ロイターはここ数日、北京で疑わしい人物や車両を特定するために警察がこのメガネを試験的に使用している様子を確認した。

習近平国家主席が率いる中国は、中国共産党の利益に反する行動をネット上だけでなく幅広く追跡・統制を徹底するため、AI、顔認識、ビッグデータといったテクノロジーの利用に本腰を入れている。

習主席は今月、国家主席の任期制限を撤廃する改革を遂行することで権力基盤を強化するものと予想されている。これによって実質的に、習氏が無期限に現在の地位に留まることが可能になる。

中国全人代の会場となる人民大会堂に足を踏み入れる代議員や訪問者は、顔認識スキャナによる検査を受けなければならない。関連する諮問機関である中国人民政治協商会議の出席者も同様だ。

テクノロジー専門の国営日刊紙である科技日報は、未来的な監視用電子機器について、中国のマンガに出てくる言葉を使い、「今年、2つの会議におけるセキュリティには、オンライン化した新たな『黒科技(ブラック・テクノロジ―)』がいくつか導入された」と表現した。

科技日報によれば、今年の全人代と政治協商会議で用いられるカメラは、疑わしい顔認識データの取得や、分析、比較を約2秒で完了できるものに更新されたという。これを支えるのは、ブラックリストに載せられた個人に関する全国データベース「スカイネット」と呼ばれるシステムだ。

「SF映画『マイノリティ・リポート』の世界は、いまや基本的には日常生活の一部になりつつある」と科技日報は述べている。『マイノリティ・リポート』は、犯罪が起こってもいないうちに解決され、処罰されるような未来社会を描いた、トム・クルーズ主演の米国映画だ。

<ロボットとドローン>

中国が実用配備しているセキュリティ技術はますます多種多彩になっており、国内関連産業の成長を加速させる一方で、個人のプライバシー侵害の拡大を巡る懸念も、人権擁護活動家の間で高まっている。

主に懸念されているのは、ブラックリストには、弁護士から芸術家、政治的な反体制派、慈善団体の職員、ジャーナリスト、人権活動家に至るまで、幅広い人々が含まれる可能性がある点だ。

新たなテクノロジーには、群衆統制用の警備ロボット、国境地帯を監視するドローン、オンラインでの言動を追跡や検閲するAIシステムなどがある。また、携帯電話データを強制的に読み取るスキャナや、バーチャルリアリティ用のカメラを装着した警察犬まで登場している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによる最近の報告によれば、中国は音声認識能力を強化するため、生体認証機能を備えた音声データベースも拡大しているという。

北西部の新疆地区など社会不安のある地域で以前から使われていた監視手法は、いまや国内で広く展開されており、来年には、強力ではあるが細分化されていたシステムを中央への集約し標準化を進める計画がある。

全人代の会合において、ほとんどの代議員は、国内の治安改善のためにテクノロジーの利用を拡大することはプラスであり、プライバシーに関する懸念を大きく上回るメリットがあると述べていた。

「これは良い話だ。わが国のテクノロジーが本当に世界をリードしていることを意味する」と中国東部・江蘇省選出の代議員Lu Yaping氏は語る。「安全性については何も心配していない」

(翻訳:エァクレーレン)

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