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焦点:トランプ氏とロシアの蜜月、米議会圧力で終焉か

1月9日、ドナルド・トランプ次期大統領は対ロ関係を改善したいという希望がある一方、ロシアによる米大統領選介入問題を受け、同国に対してさらに厳しい対応を求める党内の圧力にさらされているいる。写真は2016年11月、モンテネグロに掲げられたトランプ氏とロシアのプーチン大統領の看板(2017年 ロイター/Stevo Vasiljevic)
Phil Stewart
[ワシントン 9日 ロイター] - ドナルド・トランプ次期大統領は板挟みの状況に置かれている。対ロ関係を改善したいという希望がある一方で、ロシア政府による米大統領選への介入を米情報当局が指摘したことで、同国に対してより厳しい対応を求める共和党内からの圧力に直面しているためだ。
トランプ次期政権で首席補佐官に就任するラインス・プリーバス氏が8日、民主党組織に対するハッキング行為の裏にロシアの存在があることを暗に認めたことが示すように、トランプ氏にとっては駆け引きの余地が少なくなっている可能性がある。
ロシアが大統領選期間中のハッキングに関与している(ロシア側は否認)、あるいは11月の本選挙におけるトランプ氏の勝利を支援しようとしていたという情報当局の結論に対し、トランプ氏はこれまでずっと否定的であり、システムへの侵入は中国か「ベッドに座った400ポンド(約180キロ)のハッカー」の仕業だろうと発言してきた。
だが先週、米国の情報機関がこの件でロシアのプーチン大統領を批判したことを受けて、1月20日の大統領就任後、トランプ氏は軍事、外交、経済、そして恐らく諜報の分野で、ロシアに対する厳しい対応を求める声に直面するだろうとロシア問題の専門家は指摘する。
トランプ氏の政権移行チームにも影響力を持つ保守系シンクタンクのヘリテッジ財団のナイル・ガーディナー氏は、「米新政権はかなり厳しい方針を採る必要があるだろう」と語る。
トランプ氏が進めるロシアとの関係改善の動きを憂慮する共和党議員らが、プーチン大統領が何よりも望んでいる成果を与えないよう、新大統領に圧力をかける可能性がある、と専門家は指摘する。それは2014年のクリミア地方併合とウクライナ東部の分離独立主義者に対する支援をめぐりロシアに科した経済制裁を早期軽減することだ。
米情報機関によれば、大統領選以降、ロシアのスパイによるハッキングの標的は、民主党以外の個人や著名シンクタンクを含む組織に移っており、アナリストは、これは今後の米国政策を把握しようという試みであると考えている。
著名ロシア問題専門家ストローブ・タルボット氏が率いるブルッキングス研究所には、「大統領選の翌日、大量のサイバー攻撃が仕掛けられた」ものの、システムに問題が生じたという兆候はない、と同研究所の広報担当バイスプレジデント、デビッド・ナッサー氏は語った。
<議会との対立はあるか>
共和党のリンジー・グラハム上院議員は、同党のジョン・マケイン上院議員(上院軍事委員会委員長)とともに、現行よりも厳しい制裁を科すための法律を導入すると述べた。
「彼ら(ロシア)の最大の弱点である金融部門・エネルギー部門に打撃を与えるような制裁を導入するつもりだ」とグラハム上院議員は、NBCの「ミート・ザ・プレス」で語った。
新政権の国防長官に指名されたジェームズ・マティス氏(元中央軍司令官)は12日に上院の指名承認公聴会に臨む予定だが、トランプ氏が選挙期間中に語ったものよりも厳しい対ロシア政策を主張すると予想されている。
その場合、マティス氏は、トランプ政権の国家安全保障担当補佐官となるマイケル・フリン氏(退役陸軍中将)や国務長官に指名されているレックス・ティラーソン氏と意見が対立することになる。フリン氏はプーチン政権と比較的良好な関係にあるし、ティラーソン氏も米石油大手エクソンモービル
マティス氏がロシアに対する強硬なアプローチを推進すれば、欧州における米軍のプレゼンス強化を訴える人々を勢いづける可能性がある。その方策としては、バルト3国やポーランドにおける米軍の強化が考えられる、とアナリストは分析する。
北大西洋条約機構(NATO)はすでに、年内に旧ソ連の共和国だったバルト3国とポーランドに4万人の兵員と航空機、戦車、火砲を追加配備することを計画している。
「欧州のNATO加盟国は、トランプ新政権に神経を尖らせている」と欧州のある外交官は語る。「ロシアに大きく譲歩すれば、NATOの針路は根本的に変わってしまい、欧州は分裂の危機にさらされるだろうという」
「しかし、われわれの予想は違う。NATOはバルト地域の同盟国を安心させようと努めているし、米国は抑止の重要な一翼を担っている」と同外交官は付け加えた。
ロシアによるハッキングに対する強硬な対応を主張する人々の一部には、サイバー領域での反撃を含めるべきとの意見もある。プーチンの側近や盟友にとって不都合な資金情報のリークなどが考えられる。
これまでのところオバマ政権は、少なくとも公式にはそうした行動を自制してきた。サイバー戦争がエスカレートして、金融取引やエネルギー伝送といったきわめて重要なインフラに脅威が及ぶことを懸念しているからだ。
<新政権の対ロ政策は依然不透明>
米国がロシアによるハッキングを公表したことを受けて、トランプ氏は、米国は「もっと大きな、より良いことに取り組んでいく必要がある」と主張しているが、共和党や民主党議員らがこの問題を早々に取り下げる可能性は低い。
マケイン上院議員は、共和党優位の上院における指導者層をその気にさせることができれば、ロシアによるハッキングを調査する特別委員会を設置したいとNBCに語っている。
その一方で、同議員は軍事委員会や情報委員会など上院の主要委員会でも調査が行われるだろうと述べている。
ロシアの活動に関する精査は、トランプ新政権が、かつての冷戦時代の仇敵であるロシアに関する包括的な戦略の策定を始めるタイミングで行われるだろう、と専門家は予想する。トランプ政権による対ロシア戦略の明確な方向性が見えてくるまでには、あと数週間、あるいはそれ以上かかりそうだ。
「チームが発足し組織がもう少し整うまでは、はっきりした答えは見えてこないだろうと考えている」と現在は戦略国際問題研究所に所属するヒザー・コンリー元国務次官補(欧州担当)は語った。
(翻訳:エァクレーレン)
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