ニュース速報
ビジネス

焦点:トランプ政権誕生ならインフレ再燃、FRBに新たな課題

2024年07月25日(木)19時02分

 7月25日、 トランプ前米大統領(写真)がホワイトハウスに返り咲いた場合、インフレを抑制する連邦準備理事会(FRB)の取り組みは新たな課題に直面する公算が大きい。ノースカロライナ州シャーロットで24日撮影(2024年 ロイター/Marco Bello)

Michael S. Derby

[ニューヨーク 25日 ロイター] - トランプ前米大統領がホワイトハウスに返り咲いた場合、インフレを抑制する連邦準備理事会(FRB)の取り組みは新たな課題に直面する公算が大きい。FRBは再びトランプ氏の標的となる可能性がある。

輸入品に一律10%の関税を課し、中国製品にはさらに高い税率を課すトランプ氏の計画は、物価を一時的に急上昇させる恐れがある。不法移民を強制送還すれば、賃金が上昇してインフレ圧力が一段と高まるとみられている。

候補者の政策スタンスを反映したオックスフォード・エコノミクスのモデルによると、第2次トランプ政権下では現行の歳出法と政策の下で予想される水準と比べて、コアインフレ率が0.3─0.6%ポイント高い水準でピークを迎える見込み。

一方、民主党候補がバイデン大統領の政策を引き継いだ場合、上振れは0.1─0.2%ポイントにとどまると予想されている。

<政策の影響に大きな違い>

英シンクタンクの公的通貨金融機関フォーラム(OMFIF)の米国議長マーク・ソベル氏は「トランプ氏の経済政策は本質的にインフレを招く」と指摘する。

民主、共和両党の政権下で財務省に在籍した同氏は「関税の大幅な引き上げ、拡張的財政政策、移民の大量送還など、これら全ての要因が相まってインフレ率と金利が高くなるだろう」と述べた。

KPMG USのチーフエコノミスト、ダイアン・スウォンク氏もトランプ氏の関税引き上げと外国人労働者の「大幅な」抑制はインフレを「再燃」させるとし、FRBはおそらく現在の金利水準を「はるかに長期間」維持することになるだろうと予想した。

大統領選で民主党候補に指名されることが確実になったハリス副大統領の通商政策について、TD証券の米国担当チーフ・マクロ・ストラテジスト、オスカー・ムニョス氏はトランプ氏とは大きく異なるとし、インフレと成長予測に大きなリスクにはならないとの見方を示した。

エバーコアISIのアナリストはトランプ氏が勝利した場合、新たな見通しに対してFRBは市場より遅れて反応するとみている。また来年見込まれている利下げの一部を縮小し、2025年終盤の利上げを視野に入れる可能性もあるとしている。

<予測の変化への対応>

米ボストン地区連銀のローゼングレン前総裁は今月、Xへの投稿で、目先の利下げについてもFRBはトランプ氏勝利の可能性を考慮して決定すべきとの考えを示した。

「トランプの勝利が有力視される場合、FRBは現在のデータに基づいて金利を引き下げることが合理的かどうかを検討する必要がある」と指摘。公表している政策が実行されると、インフレショックに対処するために政策を逆転させる必要が生じる可能性があるからだ」と説明した。

これに対し米リッチモンド地区連銀のバーキン総裁は先週、「将来の政府の行動を予想して政策を策定するのは非常に難しいと思う」と記者団に語った。

パウエルFRB議長は今月議会で、関税引き上げなど将来の政策変更の影響についてコメントすることを控えた。

<インフレは緩やかに上昇か>

オバマ政権で大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたハーバード大学のジェイソン・ファーマン経済学教授は、インフレはゆっくりと変化するとの見方を示した。インフレ率は5%や6%まで上昇することはないが通常よりも高くなり、金融政策も引き締められるだろうと述べた。

大統領選で勝利したトランプ氏が利下げの縮小や撤回に動くFRBにどう対応するかも不確定要素だ。

カリフォルニア大学バークレー校のバリー・アイケングリーン経済・政治学教授は先週ペルーで行われたイベントで、トランプ政権の政策がもたらす副作用にFRBが反対した場合、同氏はFRBの改革に乗り出す可能性があると述べた。

26年5月に次のFRB議長を指名する際に、より従順でインフレ圧力の高まりに厳しく対処しない人物を選ぶこともあり得ると指摘した。

ケイトー研究所の貿易政策専門家スコット・リンシカム氏は「FRBの独立性を弱めようとする試みがあれば、少なくとも何らかの市場の反応が見られるだろう」と述べ、当局者にそうした行動を再考させるきっかけになるかもしれないと語った。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米テキサス州洪水の死者32人に、子ども14人犠牲 

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条

ワールド

EU産ブランデー関税、34社が回避へ 友好的協議で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中