ニュース速報
ビジネス

アングル:米ファストフード業界、アプリ利用の割引で低所得層つなぎとめ

2024年03月31日(日)07時39分

3月27日、 米国はファストフード店やレストランなど外食産業で価格が大幅に上昇し、低所得層顧客の間に動揺が広がっている。写真はサンフランシスコのマクドナルド店舗で2013年1月撮影(2024年 ロイター/Robert Galbraith)

Waylon Cunningham

[サンアントニオ(米テキサス州) 27日 ロイター] - 米国はファストフード店やレストランなど外食産業で価格が大幅に上昇し、低所得層顧客の間に動揺が広がっている。マクドナルドやウェンディーズなどファストフード大手の幹部からも、低所得層向け事業の先行きを不安視する声が出始める中で、各社が取り組んでいるのはアプリの導入などによる顧客のつなぎとめだ。

コンサルティング会社のレベニュー・マネジメント・ソリューションズが今年2月に行った調査によると、年収5万ドル以下の低所得者層は約4分の1がファストフードを食べる機会が減ったと回答。約半数がファストカジュアル(ファストフードとカジュアルレストランの中間形態)やフルサービスのレストランに行く回数が減ったと回答した。

節約志向の強い消費者が外食を控える一因は、価格の高騰だ。

食費は家庭と外食の両方で、2021年1月から24年1月にかけて20%と過去最速ペースで上昇。国勢調査局の世帯パルス調査によると、年収3万5000ドル未満の半数は日常的な支払いで困難を抱え、80%近くは最近の物価高に「やや」もしくは「非常に」ストレスを感じている。

テネシー州のB&B(朝食付きホテル)でパートタイムとして働くミュージシャンのローレン・オックスフォードさんは、以前なら用事を終えた後でマクドナルドに立ち寄り、ダブルバーガー2個とフライドポテト、飲み物を注文するのを自分へのご褒美にしていた。全部で5ドルしなかったからだ。

だが、価格が上がるにつれてより小さいハンバーガーにメニューに変え、飲み物も買わなくなった。さらに10%の値上げ後には店を訪れる回数が減り「今は(回数の減った)店の訪問にすら罪悪感を抱いている」という。

米連邦準備理事会(FRB)の最新の地区連銀景況調査(ベージュブック)では、12地区中7地区が低所得層の消費者の間で格安品を探す、地域団体の支援を求める、与信へのアクセスに苦労する──など消費慣行に変化が起きていると指摘した。

米国国勢調査局の最新データからは、22年に年収が3万5000ドル以下の世帯は黒人で約3分の1、白人でも21%に上る。

お手ごろ価格のイメージをアピールすることが多いファストフード企業にとって、低所得層は顧客層の基幹であり、長期トレンドの指標でもある。

しかし、最近になってファストフード各社は、以前ほど集客に熱心ではなくなっているかもしれない。というのは客足が減っても、値上げが支えとなって売上が安定しているためだ。

シグナルフレア・ドット・エーアイの最高経営責任者(CEO)でファストフード業界コンサルタントのマイク・ルキアノフ氏は「ファストフード企業は、10年前には利益よりも集客に神経を使っていたが、今は違う」と述べた。

例えば、サブウェイは08年に通常の2倍の長さのサンドイッチ「フットロング」を5ドルで全国展開し、世界金融危機後の景気後退「グレートリセッション(大後退)」を象徴する商品となった。

こうした動きにヤムブランズ傘下のKFCやマクドナルドなどライバル社が追随し、こぞって「お得感」のあるメニューを投入した。

<アプリ活用で割引>

業界アナリストによると、ファストフード各社は最近、全面的なメニューの削減や広範な割り引きではなく、より選択的な割り引き制度を導入。特定の層へのターゲット絞り込み、アプリ利用やデリバリー利用時に限るといった適用する時間帯、チャネルを限定する方向にかじを切っている。

マクドナルドの幹部は2月の投資家説明会で、既存の「バリューメニュー」を軸に低所得層の消費者にアピールしていく方針を示した。

イアン・ボーデン最高財務責任者(CFO)は、お手ごろ価格は同社ブランドの柱であり、今後もバリューメニューを「進化」させ続けると断言。クリス・ケンプジンスキーCEOは「(年間所得4万5000ドル以下の)低所得層が戦場なのは間違いない」と述べた。

ウェンディーズは最近、期間限定で1ドルバーガーを導入。グンター・プロッシュCFOは2月の投資家説明会で、低所得者層は顧客数が減っているが、市場全体におけるシェアは変わっていないと強調した。

ファストフード大手は、顧客のつなぎ留めと平均利用金額引き上げのためにアプリを使った販売戦略を多用している。

テクノミックのシニアプリンシパル、デイビッド・ヘンクス氏の話では、ファストフード企業にとって、こうした手法には販売や人口動態などのデータを取得できる利点があり、多くの企業が積極的に導入している。

例えば、マクドナルドは注文の20%の金額を割り引いたり、まとまった量の注文なら配達料を無料にしたりするなど、アプリでの割り引きを多数提供している。

ドミノ・ピザ幹部は、同社が優良顧客向けにポイント獲得の最低購入額を10ドルから5ドルに引き下げたと明かす。また、ピザを無料で入手するのに必要な購入回数も6回から2回に減らした。

もっとも全てのチェーンが低所得層顧客の獲得に苦戦しているわけではない。テキサス州サンアントニオの多くの店舗でタコスを1.40ドルで販売しているタコベルは、低所得地域の店舗は他の店舗よりも好調だったと、デイビッド・ギブスCEOが2月の投資家説明会で述べた。

サンアントニオのウェストサイドのマクドナルドを利用する小売店従業員のアンドレアス・ガレイさんにとって、マクドナルドは今でも魅力を失っていない。たとえ値上がりが続いても、コーヒーとビッグマックを注文するこれまでの習慣を続けるつもりだ。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国企業、28年までに宇宙旅行ビジネス始動へ

ワールド

焦点:笛吹けど踊らぬ中国の住宅開発融資、不動産不況

ワールド

中国人民銀、住宅ローン金利と頭金比率の引き下げを発

ワールド

米の低炭素エネルギー投資1兆ドル減、トランプ氏勝利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中