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焦点:西側防衛企業、ウクライナでの武器生産実現は「戦後」か

2023年06月25日(日)07時08分

 6月22日、西側の防衛関連企業はウクライナでの武器生産に関心を持っているが、あくまで「戦後」になってからの話だ。写真はパリ国際航空ショーの会場で掲げられたウクライナ国旗。21日撮影(2023年 ロイター/Benoit Tessier)

[パリ 22日 ロイター] - 西側の防衛関連企業はウクライナでの武器生産に関心を持っているが、あくまで「戦後」になってからの話だ。ロイターがパリ国際航空ショーで取材した業界幹部6人は、こうした考えを明らかにした。

侵攻してきたロシアを押し返す戦いを続けているウクライナは、ドローンや弾薬から戦車まで、国内における武器生産能力の拡充を渇望している。

19日にはウクライナ政府高官の1人がロイターに、ドイツ、フランス、イタリアおよび東欧諸国の防衛企業とウクライナでの武器生産を協議していると語った。

しかし話を聞いた業界幹部は、現時点ではリスクがあまりに大きいと口をそろえる。

米防衛大手ロッキード・マーチンの航空宇宙事業を率いるグレッグ・ウルマー氏は「より幅広い視野で、置かれている状況や共同生産に伴うリスクを考察しなければならない」と述べ、ウクライナと共同生産事業に関して直接話し合っているとは承知していないと明言した。

別の大手防衛2社はウクライナの取り組みを耳にしていると認めた上で、そのうちの1社は一連の紛争が終結すれば事業提携を議論するという趣意書に署名する準備をしていると付け加えた。

しかし戦争が続いている間に直接投資への意欲を見せた業界幹部はゼロで、彼らが挙げた最大の懸念は安全問題だった。

<困難な取り組み>

ドイツのラインメタルは先月、ウクライナ国有企業ウクルオボロンプロムと合弁事業を立ち上げ、ウクライナ国内で戦車の製造と修理を手がけると発表。同じく先月にはゼレンスキー大統領が、英BAEシステムズと協力し、戦車や大砲などの生産と修理それぞれの拠点をウクライナに築く取り組みを進めていると述べた。

業界幹部によると、修理施設に比べて全面的な組み立てラインを設置するのは難しい。

またロシアのプーチン大統領の最重要側近の1人、メドベージェフ前大統領は、ラインメタルがウクライナに立ち上げた施設全てが報復攻撃対象になると警告した。

スウェーデンのサーブのミカエル・ヨハンソン最高経営責任者(CEO)は「どこの国であれ、誰が適切なパートナーで、誰が何をできるのかを判断するのは時間がかかる。まして戦争が行われている中での作業は簡単ではない」と語った。

主要保険会社が、リスクが高すぎるとして戦時下のウクライナを総じて保険対象から除外しているという問題もある。

英国、フランス、ドイツ、イタリア各国の国防省はウクライナでの武器生産の可能性についてコメントを拒否。米国務省のある高官はロイターに「われわれは重要な産業基盤の再建も含めてウクライナ支援にコミットしている。(ただし)現時点で防衛機器の共同生産に関する個別、あるいは追加の情報は持ち合わせていない」と説明した。

<当面は国外から支援>

一方で業界幹部の多くは、戦争が終結した後なら、ウクライナは大きな商機を秘めているとみている。

英国とポルトガルに拠点があるドローンメーカーのTEKEVERのリカルド・メンデスCEOは「われわれが知っているのは、学習熱心で才能にあふれ、物事を成し遂げる文化を持ち、高い技能を備えた人々が(ウクライナに)いるということだ」と強調する。

同社は戦後のウクライナでの具体的な事業展開を練っているわけではないものの、ウクライナのドローン工業基盤発展に投資し、多大な貢献をしていきたいと表明した。

エアロダイナミック・アドバイザリーズの航空宇宙アナリスト、リチャード・アブラフィア氏は「長い目で見れば、ウクライナを西側産業のエコシステムに取り込み、恐らくは政治的、軍事的な同盟関係まで築くというのは最優先の目標になるだろう」と話す。

それでも大半の西側防衛企業は当面、ウクライナ国外からの支援を続けたい様子だ。

米レイセオン・テクノロジーズのクリス・カリオ最高執行責任者(COO)は「(ウクライナでの生産が)絶対にないとは言えない。だが目下のところ、重視されているのは彼らが必要なものを確実に手に入るようにすることだ」と言い切った。

(Valerie Insinna記者、Joanna Plucinska記者)

ロイター
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