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アングル:気候変動の影響開示、日本の損保が先行 不確実性になお手探り

2021年06月25日(金)15時17分

6月25日、日本の損保大手MS&ADホールディングスとSOMPOホールディングスが、気候変動による将来の支払い保険金の変動見込みを8月にそれぞれ公表する。2019年10月、長野県の千曲川氾濫現場で撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

和田崇彦 木原麗花

[東京 25日 ロイター] - 日本の損保大手MS&ADホールディングスとSOMPOホールディングスが、気候変動による将来の支払い保険金の変動見込みを8月にそれぞれ公表する。気温上昇などで自然災害が増え、企業もそのリスクを経営に織り込むことが求められる中、欧米の競合他社に先駆けて投資家に情報を開示する。しかし、災害予測の不確実性が高いことや、国連の機関で作られた計測モデルを問題視する声もあり、公表への動きはまだ鈍い。

<G7が開示義務化を支持>

MS&ADは5月、国内機関投資家・アナリスト向け説明会で2050年に台風被害で支払う1年間の保険金の累計金額水準がどの程度になるか、分析結果を公表した。台風の勢力変動で現時点に比べてプラス約5%─プラス約50%、発生頻度の変動でマイナス約30%―プラス約28%とした。

MS&ADは、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEPFI)で作成したツールを使用して分析した。21世紀末の世界の平均気温が産業革命前との比較で約4度上昇すると想定した。

投資家の判断に使うため、何も出さないよりはまずは何かを出してみようということだと、サステナビリティ推進室の蟹江康正課長は開示に踏み切る理由をこう話す。「プロが出した数字、正確だと受け止められるとそれは違う。正解がない中で、今あるものをいったん出してみようという趣旨だ」と話す。MS&ADは8月に分析の全体像を開示する予定にしている。

主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は今月5日の声明で、国内規制を踏まえ、気候変動に関する財務情報の開示を義務化していくことに支持を表明した。東京証券取引所も11日、コーポレートガバナンス・コードの改訂版を公表し、より高度な企業統治を求めるプライム市場の上場企業に対し、気候変動開示の充実を求めた。

MS&ADの決断はこの流れに沿うもので、SOMPOも8月、UNEPFIのツールに基づく分析結果を公表する予定だ。

<短期も予測困難>

一方、現時点で試算を開示をすることに懐疑的な声もある。S&Pグローバル・レーティング・ジャパンの久保英次・主席アナリストは、損保の一部で開示の動きが出てきたことに驚きを隠さない。自然災害の影響分析の幅の大きさに加え、UNEPFIの報告書で示された計測モデルが不確実性をさらに増幅させるとみている。

久保氏によると、東日本大震災のような巨大災害1つでモデルが大きく動くという。2050年までの間に大規模な自然災害が発生すればモデルの係数が変わるにも関わらず「係数の変化は織り込めない」と、久保氏は話す。分析に用いるデータについて「選定基準が与えられているが、基準を満たしたところで予測のデータ。データ入力の段階で、信頼性が揺らぐ」とみている。

UNEPFIは1992年に設立され、日本からは大手損保3社を含む14の金融機関が参加している。今年1月、気候変動リスクの保険分野における影響分析と情報開示に向けた報告書を公表した。

そもそも、自然災害の発生リスクは、短期でも正確に予測するのが難しい。日本の大手損保3社が年度初めに公表する国内自然災害の正味発生損害額の予想に対し、実績値は毎年上回っているのが実情だ。大きな自然災害が少なかった20年度でも、正味発生損害額は予想を上回った。

東京海上ホールディングスのサステナビリティ室でマネージャーを務める嶋田浩生氏は「CAT(大災害)リスクは不確実性が非常に大きい。マーケット全体をミスリードしていく可能性もある」と話す。

欧米の大手保険会社は、今のところ気候変動の影響について定量データを開示していない。

S&Pの久保氏は、開示を急ぐ必要はないと指摘する。「規制当局がいったん入って前提をもっとそろえて何回かテストを行い、結果を集計値として公表する。ある程度落ち着いてきたら各社の開示に任せればいい」と話す。

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