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焦点:政策正常化へ先行する複数の中銀、米テーパリングに警戒

2021年06月12日(土)08時45分

6月10日、 世界全体では、米連邦準備理事会(FRB)に先んじる形で他の中央銀行が金融政策正常化への地ならしに動いているという構図が見える。ワシントンのFRBで2018年8月撮影(2021年 ロイター/Chris Wattie)

[東京/ヨハネスブルク/ロンドン 10日 ロイター] - 世界全体では、米連邦準備理事会(FRB)に先んじる形で他の中央銀行が金融政策正常化への地ならしに動いているという構図が見える。既に複数の中銀は、大規模緩和の出口に向かうとのシグナルを送っている。

FRBは公式には事実上のゼロ金利継続を約束し、市場で織り込まれている利上げ開始時期は早くて来年終盤だが、今後数カ月で高官らが一斉に物価圧力に言及する可能性はある。そうなればテーパリング(量的緩和の段階的縮小)がより現実的な未来として浮かび上がり、国際金融市場のボラティリティーが大きくなる公算が大きい。

この面で特に悪影響を受けやすい新興国中銀は金融システム強化を図り、2013年の「テーパー・タントラム」(当時のバーナンキFRB議長のテーパリング示唆発言をきっかけに表面化した金融市場の混乱)によって発生したような資金流出を回避しようとしている。当時、FRBが世界金融危機への対応として実施した量的緩和の縮小を示唆しただけで、世界の債券市場が大混乱に陥った。

野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストで元日銀審議委員の木内登英氏は「新型コロナウイルスのパンデミックからの経済回復は国・地域ごとに千差万別で、回復が遅れている国も存在する。一部の新興国では経済が脆弱な状態であっても、中銀が通貨防衛のために利上げせざるを得なくなるかもしれない。一部でそういう現象がすでに起きている。FRBが今後数カ月、テーパリング戦略についてのコミュニケーションを始めればこの傾向は拡大し、世界経済にとってリスクになりかねない」と述べた。

目下のところ市場が想定しているのは、FRBが8月のジャクソンホール会合でテーパリング戦略に関する対話を開始し、年内に実行するという展開だ。

こうした中で、先進国の幾つかの中銀は先手を打ちつつある。4月にはカナダ中銀が主要7カ国(G7)で初めて量的緩和縮小を始めるとともに、来年中に利上げに踏み出す可能性を示唆。ノルウェー中銀は今年第3・四半期か第4・四半期の利上げ開始計画を発表済みだ。また、ニュージーランドと韓国の中銀も、金融引き締めが検討課題になっているとのメッセージを発信している。

これらの国の決定は主として国内経済情勢に基づいているとはいえ、FRBがいずれ緩和縮小に動くという見方は、世界の全ての中銀にとって大きなリスクとして存在する。もっとも数十年にわたる世界経済の浮き沈みの中で、ほぼ一貫して超緩和政策を続けてきた日銀の場合、FRBの引き締めは自らも緩和縮小に乗り出すチャンスとみなしてもおかしくない。

木内氏は「FRBが利上げに向かえば、日銀にとっては円高を引き起こすリスクをあまり気にせず正常化を進めるチャンスとなる。前回FRBが利上げした際、日銀はついていかなかった。次回のチャンスは逃さないでおこう、と考えたとしてもおかしくはない」と話した。

<新興国の対応>

一方、新興国はFRBの引き締めがもたらす最大のリスクに向き合わなければならない。過去には1998年や2013年のように、米金利上昇に起因する新興国からドル建て資産への大規模な資金シフトが、市場に混乱を招いてきたからだ。

1998年のアジア金融危機を生んだアジア市場は、当時よりもずっと健全化しており、通貨安を支えられるだけの強固な外貨準備を今なお保有している。インド中銀総裁は先週、外貨準備高は6000億ドル超に達し、世界的な混乱の広がりに対処する上で効果を発揮するとの見方を示した。

ただ、アジア金融危機の教訓は、パンデミックを原因とする今回の危機には役立たないのではないかとの声も聞かれる。

いちよし証券の上席執行役員チーフエコノミストで元日銀幹部の愛宕伸康氏は「アジア諸国はアジア通貨危機から教訓を得たかもしれないが、今回の危機は金融危機でも経済危機でもない、という点で他に類をみない」と指摘。その上で「今世界経済の根底にあるのは不均一。世界経済の不均一さが、新興国経済に様々なリスクを生み出す可能性がある」と語った。

FRBの動きを用心深く見守っている国の1つに挙げられるのは、経常赤字を外国からの資金で賄っているインドネシアだ。中銀のペリー総裁は5月に「来年われわれはFRBが金融政策を転換し、流動性供給を減らす可能性に備えなければならない」と述べ、こうした政策変更がインドネシアの債券利回りに影響を及ぼしそうだと付け加えた。

ブラジル、ガーナ、アルメニアといったより脆弱な新興国市場の中銀は、既に物価圧力を踏まえて引き締めサイクルに突入している。

ロシア中銀は11日、3会合連続の利上げを実施する見通し。トルコに至っては、昨年のうちから積極的に金融を引き締めており、中銀総裁はこれがFRBの政策転換からの「盾」になると期待する。

タイ、フィリピン、南アフリカなどの中銀当局者は、FRBが早まった利上げを行うはずはないし、市場との対話は十分な透明性が保たれると自信を持つ。

それでも彼らはリスクがあると認めている。南ア中銀のシャジバナ副総裁はロイターに「FRBは米国の物価がもっと上がるのを見たいと言い続け、インフレをある程度容認する姿勢を示してきた。(だが)われわれ全員が分からないのは、その許容限度が一体どれぐらいなのかだ」と語った。

(Leika Kihara記者、Mfuneko Toyana記者、Karin Strohecker記者)

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