ニュース速報

ビジネス

アングル:日本企業がアクティビスト逆活用、投資家視点で変われるか

2021年04月21日(水)19時53分

日本企業の間で、これまで厄介な存在とみなされてきた「物言う株主(アクティビスト)」の主張を経営に「活用」する事例が出始めている。写真はオリンパスのロゴ、2012年12月撮影(2021年 ロイター/Yuriko Nakao)

(見出しを整えました)

[東京 21日 ロイター] - 日本企業の間で、これまで厄介な存在とみなされてきた「物言う株主(アクティビスト)」の主張を経営に「活用」する事例が出始めている。投資家視点のサポートをテコに、構造改革を進めた老舗企業もある。日本企業のガバナンス向上を踏まえ、アクティビストの側からも「建設的」なアプローチが出始めている。

「とうとう、うちにもアクティビストがきたか」──。オリンパスの竹内康雄社長兼最高経営責任者(CEO)は、運用会社の米バリューアクト・キャピタル(VAC)からの投資が明らかになった際の受け止めを「条件反射的な拒絶反応」と振り返る。それが今では「頼りになるパートナー」に変わった。何があったのか。

時間を、竹内氏が最高財務責任者(CFO)に就任した16年に巻き戻す。会計不祥事からの経営立て直しの局面で、社内は課題が山積していた。世界展開を進めつつも戦略は日本の価値観に則ったものに偏り、日本にだけ年功序列制度が残っていた。製品・地域ごとに「ムラ文化」が形成され、取締役会は「利益代表者会議」の様相だった。

カメラ市場は低迷し、経営資源を医療分野に集中する方針を掲げたものの改革は進まず、笹宏行社長(当時)と竹内氏は危機意識を強めた。17年頃から、真のグローバル企業になるべく本質的な改革の検討に着手。VACが投資したのは、そのタイミングだった。

<「成長につながる」から再任>

窓口は当時CFOの竹内氏。意見交換してみると「まともな投資家で、アクティビストも一様ではないと思い始めた」。会社のことをよく調べ、理解も深く、独自の展望も持っていた。

18年5月には、VACが出資比率を引き上げた。ヘルスケアに知見のあるロバート・ヘイル氏、ジミー・ビーズリー氏を社外取締役に推したいとVACから打診を受けた竹内氏は「これまでのやり方を全部ひっくり返すぐらいでなければ100年続くこの企業は変わらない」と考え、19年1月に受け入れを発表した。

金融市場は、変化を感じ取った。東海東京調査センターの赤羽高シニアアナリストは、この頃から改革が「一気に具体的に動き出した」と指摘する。

19年には、業務執行と監督を分離する指名委員会等設置会社への移行を決定した。伝統的な監査役会型では取締役会の決定事項が多く機動的でないと判断。ムラ意識を崩すには、少人数の執行陣が意思決定し、取締役会がそれをサポートする役割の明確化が必要と考えた。竹内氏は、VACとのコミュニケーションもあって「取締役会によるコーポレートガバナンスのあるべき姿を、深く考えるようになった」と打ち明ける。

ヘイル氏とビーズリー氏は、会社の利益成長という目的を執行陣と共有し、選択肢やアドバイスの提示はしても、執行陣の意向には反対せず、サポート役に徹した。その振る舞いは他の取締役にも好影響を及ぼし「理想的なボードメンバー」(竹内氏)として20年に再任した。「成長につながると思わなければ、2年目は推薦していない」と竹内氏は語る。

オリンパスは19年、国内にジョブ型人事制度の導入を決めた。20年以降には医療関連企業の合併・買収(M&A)を積極化。会社の「顔」だったカメラ事業の売却も決めた。19年以降、TOPIXが約3割上昇した局面で、同社の株価は3倍近くに上昇した。

<ガバナンス改善で「土壌」整う>

大手企業では東芝が3月、筆頭株主の要請で臨時株主総会を開き、会社側が反対した株主提案が可決された。この株主提案は東芝のガバナンスの適正性を問うもので、投資家の間では、取締役会が適切に監視機能を果たしているかチェックする機能を、アクティビストが果たし得るとの見方も出ている。

フィデリティ投信の井川智洋ヘッド・オブ・エンゲージメント兼ポートフォリオ・マネージャーは、アクティビストの存在が近年、投資判断の要素に入ってきたと話す。アイ・アールジャパンによれば、国内で活動するアクティビストの数は年々増加し、14年の7から、20年には44になった。取締役の選任議案などで、アクティビストの意見を会社提案として取り込む事例もあり「経営陣との対話を重視するアクティビストが目立ち始めた」と、井川氏は話す。

こうした動きは、企業のガバナンス向上とも関係がありそうだ。英投資会社のアセット・バリュー・インベスターズのジョー・バウエルンフロイントCEOは「政府によるコーポレートガバナンス・コードなどの導入を機に、企業側もいわゆるアクティビストと建設的に議論するようになった」と指摘している。

市場が好感した企業は他にもある。化学メーカーのJSRだ。オリンパスにVACから派遣されていたヘイル氏を、社外取締役候補にすると1月に発表。翌日の株価は一時7%超上昇した。宮崎秀樹取締役常務執行役員は、VACとの意見交換を通じて中長期の企業価値向上を考えていると理解できたと、当時の会見で説明。受け入れの判断は「経営のスピード感を高めたいと考えた結果」と話した。オリンパスと共通するのは、伝統ある事業の改革だ。JSRは祖業の合成ゴム事業の改革を「抜本的かつ聖域なき観点で進める」(宮崎氏)と語った。

早稲田大学大学院経営管理研究科の鈴木一功教授は、日本企業は良くも悪くも横並びだとし「良い実績がいくつか示されれば、同様の取り組みは広がり得る」と話す。オリンパスは22年3月期には、カメラ事業売却に関連した構造改革費用がなくなる。東海東京の赤羽氏は、海外事業の拡大も見込んでおり「攻勢に転じる」とみている。

市場は、経営陣のアクティビストに対する目利き力や、市場との対話力にも目を凝らしている。オリンパスやJSRのように、投資だけでなく経営に参画する場合は「会社側と議論し、ガバナンスへの影響について個別に評価する必要がある」と、フィデリティの井川氏は話している。

*内容を追加し、見出しを変えて再送します。

(平田紀之 山崎牧子 編集:石田仁志)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBの次回利下げ、9月より後になる公算=リトアニ

ワールド

トランプ氏、日本に貿易巡る書簡送付へ 「コメ不足な

ワールド

米政権がロス市提訴、ICE業務執行への協力制限策に

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック最高値更新、貿易交
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中