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アングル:日系自動車各社、新興国戦略を加速 小型車強化や輸出拡大狙う

2016年02月09日(火)19時13分

2月9日、インドネシアやタイなどの新興国で日系自動車メーカーの競争が一段と激化しそうだ。ジャカルタのトヨタ販売店で昨年6月撮影(2016年 ロイター/NYIMAS LAULA)

[東京 9日 ロイター] - インドネシアやタイなどの新興国で日系自動車メーカーの競争が一段と激化しそうだ。トヨタ自動車<7203.T>はダイハツの完全子会社化に踏み切り、小型車戦略を加速する構え。スズキ<7269.T>やホンダ<7267.T>も輸出機能や販売の強化に動き出している。

小型車需要拡大をにらんで日本のベンチャー企業も参入するなど、経済減速が続く新興国市場で、各社のせめぎ合いが熱を帯びている。

<スズキ、トヨタの動きに危機感>

「大変なことになった。商品戦略、技術戦略、営業力ともにますますふんどしを締めてかからないといかん」――。スズキの長尾正彦常務役員は8日の会見で、トヨタによるダイハツの完全子会社化に危機感をあらわにした。

インドではシェア首位を維持して好調なスズキだが、東南アジアになると話は別だ。2015年4―12月期のインドネシアでの販売は前年同期比22%減の9万2000台。今すぐ回復は望めず、「かなり厳しい状況になっている」(長尾氏)。

昨年には同国で総額約930億円かけて工場を建設したばかりで、小型の多目的車(MPV)「エルティガ」を生産しているが、現地での販売は弱い。工場の稼働率を上げるため、インドネシアからフィリピンやベトナムへ輸出するなどして「てこ入れを始めたところだ」(同)。

ダイハツを完全子会社化するトヨタは、すでにタイ、インドネシアの乗用車シェアでいずれも約4割を占めるトップ。だが、昨年はシェアを落とし、タイで前年比5.4ポイント減の35.6%、インドネシアで同0.6ポイント減の42.2%だった。

トヨタが新興国市場での優位を維持するうえで「まだ存在感を示せていない」(豊田章男社長)小型車での戦略強化は欠かせない。新興国では所得向上に伴い新しいユーザー層が増え、二輪から四輪への乗り換え需要も高まっているが、最初に手にするのが「安くて小さい車」であり、地球環境問題の点からも従来以上に小型車の重要性は増している。

同社はすでにダイハツと共同開発や生産協力を通じて、インドネシアでは両社でシェアの5割以上を握るが、完全子会社化を機に、さらに協力する地域や技術などの領域を広げる。

<追撃するホンダも警戒>

ホンダの昨年の乗用車シェアは、インドネシアで3.5ポイント増の21.6%、タイで0.6ポイント増の26.1%となり、両国でトヨタに続く2位につけている。

小型車の「ジャズ」や「シティ」が好調なマレーシアでも外国車としてシェア首位の15.9%と2.7ポイント伸ばし、インドネシアでのシェアは2年前の倍以上になった。世界6極体制を敷き、各国の政策やニーズに合った車両を現地で開発してきた成果が実を結んだ格好だ。

インドネシアでは政府が低燃費で安価な環境対応車を普及させるため、LCGC(ローコストグリーンカー)政策を推し進めている。排気量などの基準を満たせば税優遇を受けられるため、需要が低迷する中でもLCGC対象車は伸びている。ホンダもこの政策に対応した小型車「ブリオ・サティヤ」の売れ行きが好調だ。同国で人気の高いMPV(多目的車)の「モビリオ」もヒットしている。

トヨタによるダイハツ完全子会社化の発表を受けて、ホンダの岩村哲夫副社長もインド、インドネシア、マレーシアなどが主戦場になるとし、「十二分に何が起きているかを把握しながら、必要な対応策を取る」と気を引き締める。

日本のベンチャーも新興国市場を狙っている。13年設立のFOMM(フォム、神奈川県川崎市)はタイ政府の支援も受け、来秋からタイで超小型の電気自動車(EV)の生産・販売を計画。20代の若者を中心に販売拡大を狙う。その後はインドネシアやマレーシアでも展開したい考えだ。

スズキ出身でアラコ(現:トヨタ車体)を経て1人乗りEV「コムス」などを開発してきた鶴巻日出夫社長は「地球温暖化は急速に進んでおり、本来は車は増やしてはいけないが、増える地域はまだ多い。小型EVのような車が増えないと地球は滅ぶ。何年後になるかわからないが、いずれ小型車が世界では主流になる」と話している。

一方、米国勢はすでに規模縮小や撤退を余儀なくされている。米ゼネラル・モーターズ(GM)が昨年、売れ行き不振からタイでの一部車種の生産を停止したほか、インドネシアの工場を閉鎖。米フォード・モーターも先月、同国からの撤退を発表した。

米調査会社フロスト&サリバンによれば、16年の新車販売はタイで前年比1.3%減の78万台、インドネシアで同4.3%減の96万9100台、マレーシアで1.4%減の約64万8000台と主要3カ国市場はいずれも落ち込む見通しで、各社の戦略は厳しい課題を抱えている。

(白木真紀 編集:北松克朗)

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