ニュース速報

ビジネス

アングル:年金など投資家、利回り「消滅」で高リスク債券に食指

2015年02月16日(月)15時17分

 2月13日、投資家がリターン確保に向け、流動性が低いあるいは信用格付けが低いなど、よりリスクの高い債券に手を伸ばし始めている。写真はフランクフルト証券取引所、1月撮影(2015年 ロイター/Pawel Kopczynski)

[ロンドン 13日 ロイター] - 投資家がリターン確保に向け、流動性が低い、あるいは信用格付けが低いなど、よりリスクの高い債券に手を伸ばし始めている。最上位格付けのソブリン債どころか社債でも利回りが「消滅」するケースが出始めたためだ。

戦略の見直しを進める投資家は年金基金から中央銀行まで広範に及ぶ。いずれもデフレやゼロ金利、債券利回り消滅という市場環境にあってリターン確保に苦慮している。

これらの投資家はヘッジファンドなど「オルタナティブ」投資や株式などに走るよりは、債券市場内で他の投資先を探す意向が強い。

インサイト・インベストメントの固定金利商品担当シニアスペシャリスト、エープリル・ラルース氏は「顧客との間でマンデート修正の話が出始めたのは1年半前だが、昨年10─12月に急増した」と話した。今の債券利回りの低さを考えれば、戦略見直しに関する顧客との協議はさらに増える見通しだという。

全世界で42兆ドルを運用する年金基金のうち、確定拠出型の比率は現在38%。これが今後数年間で確定給付型を上回る見通しであるため、利回り追求の姿勢はますます強まりそうだ。タワーズ・ワトソンによると、全世界で年金基金運用資産の対国内総生産(GDP)比は2008年の54%が昨年末には84%に上昇した。

債券利回りの低下に拍車を掛けたのは昨年下半期の原油価格急落だ。インフレの低下で利回りが下がり、場合によってはマイナスとなった。

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの試算では、世界中でマイナス利回りとなった長短期の国債は約7兆3000億ドル相当。ドイツ国債は6年物まで、スイス国債は10年物までの銘柄がいずれもマイナスに沈み、スイスではネスレの10年物社債利回りまでもが先月、一時的にマイナスとなった。

しかし投資戦略の変更は一朝一夕で進むものではない。資産運用会社と顧客との協議、変更決定、資産処分など、実際の手続きには数カ月要するのが一般的だ。

<従来的思考の切り替え>

ただ、修正の圧力は高まっている。英年金保護基金(PPF)の先週の発表によると、英国の6057の民間年金基金の積み立て不足は昨年末時点で過去最高の3675億ポンド(5595億9000万ドル)に達した。

年金基金は長期負債に見合う長期資産を買って資産運用しているのが普通なので、投資債券の年限をさらに伸ばす余地はほとんどない。このため債券市場内で新たな投資分野に目を向けている。

マーサー・インベストメンツのパートナー、ポール・キャバリエ氏によると、顧客はこの数年で国債や投資適格債など「コア」な資産を対象とする戦略から離れ、これまで投資しなかった地域の債券や高利回り債、新興国債などを含む「コア・プラス」戦略へ、さらには幅広い資産を売買する「無制約」戦略へと移行している。

もっとも高格付けの国債は市場規模が大きく流動性も高いため、いくら利回りが低いといっても無視できる資産クラスではない。ポートフォリオの分散化、安全資産の確保、流動性などの面から保有は理に適っている。デフレを考慮すれば、実質的にはそこそこのリターンがあると言えるかもしれない。

ジュネーブを本拠とするユニジェスチョンのシニア・バイス・プレジデント、オリバー・ブリン氏は顧客に国債保有を継続しつつも銘柄を慎重に選ぶよう推奨している。「利回りは今後も低水準にとどまりそうで、リターンはプラス、株のリスクを分散化する必要もある」と述べ、最上級格付けではないが信用リスクがイタリアやスペインほどではないアイルランドのような国を物色しているとした。

(Jamie McGeever記者)

ロイター
Copyright (C) 2015 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中