ニュース速報

アングル:日米通商交渉、為替条項の取引カード化に警戒の声 

2019年04月17日(水)14時24分

[東京 17日 ロイター] - 日米通商交渉は、対象範囲を限定したい日本と、広げたい米側とのギャップをあらためて浮き彫りにした。その一方、市場が注目した「為替条項」について、米側から表立った盛り込み要求は表面化していない。ただ、有利な交渉条件を引き出すためのカードとして、米側が持ち出す可能性も市場では指摘されており、日本側は米国の出方を慎重に見守るスタンスだ。

ワシントンで15─16日に開かれた今回の日米通商交渉では、交渉範囲の確定に至らなかった。物品の関税交渉に限定したい日本と、自動車や農産品に限らず、幅広い分野での貿易協定(FTA)に発展させたい米側との隔たりを埋めきれず、今月下旬の日米首脳会談前の次回会談に結論を先送りした。

「今回の会合は『キックオフ』としての位置付け」と静観する日本政府関係者の声とは裏腹に、米通商代表部(USTR)は16日、通商交渉後の声明で、対日貿易赤字は巨額と不満をあらわにし、市場では「米側の譲歩を引き出すのは難しい。いずれ協定文書で為替条項を受け入れざるを得なくなる」(第一生命経済研究所・主席エコノミスト、田中理氏)との声がくすぶる。

国際通貨基金(IMF)が昨年9月に公表した対日4条報告では、2018年の日本実質為替レートについて「経常収支の評価に基づくと、中期的なファンダメンタルズと望ましい政策とおおむね整合的な水準にある」と暫定的に評価された。

ただ、日本側にとっても「トランプ米政権の出方は、なお見通せない」(政府関係者)と不透明感が漂っている。

日本政府は、通商交渉の場で為替条項を交渉せず、その議論は日米財務相をトップにした話し合いの場で調整するという基本姿勢を貫いている。

ただ、過去の日米交渉を振り返っても、「互角」の交渉に持ち込んだことはほとんどなく、今回も通商交渉の決着時に締結する「協定」本体か、付属文書に「為替条項」が盛り込まれる可能性に言及する関係者もいる。

しかし、そのケースでも「為替水準の大幅な変更や、日本のマクロ政策に影響が出るほど実質的に何かを変えるようなことにはならない」(政府関係者)との声がある。

その一方、民間エコノミストの中には、深刻な影響を懸念する見方もある。ニッセイ基礎研究所・シニアエコノミスト、上野剛志氏は「他国の金融政策にまで口を出す『内政干渉』まで踏み込んでこないと楽観する声もあるが、(米国が通商交渉に臨んだメキシコやカナダなどと比べ)日銀の緩和政策は、他の中銀とは比較にならない(ほど緩和効果が強い)」と指摘し、「少なくとも日米交渉が続いているうちは、日銀は、『円安誘導を試みた』と受け取られかねない金利引き下げなどの追加緩和に動きにくい」と話す。

為替条項の扱いを巡って、茂木敏充経済再生担当相は16日の通商交渉終了後、ワシントンで「財務当局間で議論するべき内容」との見解を繰り返したが、自動車や農産品で譲歩を迫る米側にとって、為替条項は「有力な交渉カード」(ニッセイ基礎研の上野氏)とみえる。

米国がメキシコ、カナダと昨年11月に結んだ新たな貿易協定「USMCA」と類似の為替協定なら「為替介入など具体的に何かを制約するものではないが、(日米首脳会談や今後の実務協議の中で)強いメッセージが出る懸念は残る」(第一生命経済研の田中氏)とされ、結論を得るまでは予断を許さない状況だ。

(ポリシー取材チーム 編集:田巻一彦)

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

〔マクロスコープ〕迫るタイムリミット? ソフトバン

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 演習2日

ワールド

オランダ企業年金が確定拠出型へ移行、長期債市場に重

ワールド

シリア前政権犠牲者の集団墓地、ロイター報道後に暫定
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中