ニュース速報

アングル:ハノイ米朝会談、金正恩氏「中国鉄道旅」の謎

2019年02月28日(木)16時09分

Ju-min Park and Josh Smith

[ハノイ 27日 ロイター] - 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を乗せ、ベトナム国境の駅ドンダンに26日到着した特別列車は、赤と黄色の機関車に引かれていた。その車体には、中国国有鉄道のロゴがはっきり描かれていた。

トランプ米大統領との会談のため、金委員長が開催国へ外遊するのは今回で2度目だが、どちらも中国から提供された輸送手段でやって来た。これは国際舞台に立て続けに登場することになった若き指導者が、より強力な近隣の大国にいかに頼っているかの表れだ。

金委員長は昨年6月、中国の国旗が描かれた中国国際航空の旅客機に乗り、史上初となる米朝首脳会談の開催地シンガポールへ向かった。

南北国境の板門店で行った文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領との2度の会談を除き、中国の習近平国家主席との初会談、そして今回のトランプ大統領との2度目の会談では、ともに中国が提供した機関車が使われた。

「これは習主席からのフルサービスだ」と、韓国の情報機関にいたNam Sung-wook氏は言う。「金委員長は、中国による特別待遇がなければ現地まで行けなかった」

習主席との会談のため、これまで4度訪中した金委員長は、いずれも特別列車で北京へ向かった。客車を引いたのは中国製の緑色の機関車「東風11Z型」。車体には国有鉄道会社の中国鉄路総公司のロゴが描かれ、少なくとも3つの異なる登録ナンバーが記されていたことが、メディアの写真から明らかになっている。

2018年3月の初訪中で使用されたのは、中国高官を乗せた客車を引くために使われる機関車だった。韓国メディアは、北朝鮮との国境沿いにある中国の丹東で、金委員長の列車に接続されたと報じた。

金委員長がベトナム入りした際の機関車は赤と黄色の「東風4型」で、23日に北朝鮮から中国に入った際に使用されていた11Z型よりも旧式のものだった。

中国が機関車をいつ、どのような形で北朝鮮に提供したのかは不明だ。

中国外務省の陸慷報道官は、特別列車をけん引する機関車が途中で変わったこと、さらに中国が機関車を北朝鮮に提供したのかどうかについて聞かれると、そのようなことにあまり注意を払っていないと回答した。「機関車が変更されたかどうかによって、状況に対する評価に何か特別な意味を与えるのか私には分からない」と、26日の定例記者会見で語った。

報道官はその一方、中国が金委員長の列車移動に「輸送保証」を提供したことを明らかにした。詳細は語らなかったが、列車がスムーズに中国を通過することを保証したものとみられる。

<元帥様の「長征」>

北朝鮮を出発し、中国を通ってベトナムへ入る何千キロにも及ぶ行程は、指導者になって以降の金氏が経験する最も長い旅路だった。北朝鮮の国営メディアはその間、学校で地球儀を見ながら「敬愛する元帥様は今どこにいらっしゃるのですか」と質問する子どもたちの写真を掲載した。

報道各社は、中国の駅ホームで休憩中にたばこを吸う金委員長の珍しいプライベート写真を撮影した。

金委員長の特別列車は武装されているとされる。国営メディアは、ピンク色の革製ソファや大画面テレビが置かれた車内の様子を映し出した。

中国の一部ネットユーザーは、こうした写真を見ても何とも思わないだろう。彼らは貧しく立ち遅れた隣国の状況をソーシャルメディア上で冗談めかしながら語り、中国が整備した高速鉄道と、金委員長に貸与したディーゼル機関車を比較した。

短文投稿サイト微博(ウェイボー)には、古い蒸気機関車の写真とともに「平壌からハノイまでこんなふうに移動するのかな」などと書き込まれた。「50年に及ぶ米国の制裁下で、貧困にあえぐ北朝鮮は飛行機すら買えない」との投稿もあった。

中国東北部の錦州では、鉄道が一時まひしたことへの不満も聞かれた。警察は、金委員長を乗せた列車が無事通過できるよう道路を封鎖した。

北朝鮮の鉄道について昨年本を書いた韓国の元鉄道技師、Kim Han-tae氏は、中国は多大な労力を払ったと指摘する。北朝鮮の客車を中国の機関車で運ぶことを決めるまでには、さまざまな難問があっただろうと同氏は言う。

「要するに、北朝鮮の列車が中国を通過するには、中国が自国の鉄道網で運行しなくてならない。もちろん機関車も中国製でなくてはならない」

1月の北京訪問時に金委員長が使った東風11Z型と同タイプの機関車は、鉄道ファンのインターネットサイトの写真で確認できる。北京で2階建て客車をけん引している。

一方、帰国した金委員長の列車をけん引していた機関車は、北京を出発したときの機関車とは異なっていたことが、北朝鮮国営メディアの写真から確認できる。

金委員長の特別列車でおなじみになった東風11Z型は、中国国内でしか使われていない可能性を示唆している。

(翻訳:伊藤典子 編集:久保信博)

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

チェイニー元米副大統領が死去、84歳 イラク侵攻主

ビジネス

リーブス英財務相、広範な増税示唆 緊縮財政は回避へ

ワールド

プーチン氏、レアアース採掘計画と中朝国境の物流施設

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中