ニュース速報

焦点:原油急落で緊張走る米株市場、景気や企業収益に黄信号

2018年12月08日(土)09時49分

Lewis Krauskopf

[ニューヨーク 6日 ロイター] - 米国株投資家は、足元の原油価格急落に対する警戒感を強めている。今後企業収益を圧迫する恐れがあるだけでなく、原油安は世界経済の成長の弱さのサインとみなされるからだ。

石油輸出国機構(OPEC)が6日の総会で具体的な減産量の決定を先送りしたことを受け、原油価格は一段と下落。10月初めに1バレル=75ドルだった米WTI先物は、50ドル強にまで軟化している。

原油安は、一部の企業にとってはコスト低下につながり、消費者は燃料代を節約できるなど経済にある程度の恩恵をもたらす。しかしS&P総合500種を構成するエネルギー企業や関連業種の利益は目減りする見通しだ。

2016年初めに30ドル割れまで進んだ原油安を受けて主要産油国が実施した協調減産で、緩んでいた需給はいったん引き締まったが、足元では供給過剰が再び顕在化しつつある。また投資家は、米中貿易摩擦などを背景とする景気減速が原油需要を冷え込ませ、価格を一段と押し下げる事態を心配している。

BNYメロン・インベストメント・マネジメントのチーフ市場ストラテジスト、アリシア・レバイン氏は「原油売りの始まりは供給問題だった。過去数週間は、需要減退の恐れが広がっている。そして需要減退懸念は、世界的な成長鈍化への不安と直接関係している」と指摘した。

サントラスト・アドバイザリー・サービシズのチーフ市場ストラテジスト、キース・ラーナー氏は「市場にとって今の1バレル=50─60ドル近辺の水準は恐らく居心地が良い。なぜなら生産者は十分な利益を得られるし、消費者も助かるからだ。しかし突然値下がりするようなら、世界経済にとってどんな意味があるのかとの心配が一層大きくなる」と話した。

ネッド・デービス・リサーチのチーフ米国ストラテジスト、エド・クリソルド氏の分析では、1982年以降に原油価格が30%以上下落した局面は現在まで13回となり、過去12回のうち8回は同社の定義した米国株の弱気相場と重なっている。独自に定義した弱気相場とは、ダウ工業株30種が50営業日後に30%、あるいは145営業日後に13%下落する展開だ。

一方、その8回のうち米国の景気後退と重複したケースは3回だけだった。

マトリクス・アセット・アドバイザーズのデービッド・カッツ最高投資責任者によると、原油と株式の両市場はともに国際貿易、中国経済および世界経済の動きに目を凝らしており、短期的に相関性が非常に高まっている。

こうした中で10月に原油価格が直近高値を付けた時期から、S&P総合500種のエネルギー株指数は約19%下がり、下落率はS&P総合500種全体の2倍に達した。リフィニティブのIBESデータを見ると、エネルギー企業の来年の増益率見通しも、10月1日時点の26.2%から21.1%まで下振れした。

むろん原油安にはガソリン価格下落を通じて消費を刺激したり、燃料コスト低下による物価抑制を通じて米連邦準備理事会(FRB)の利上げをペースダウンさせる可能性があるなど、相応のメリットがあることは多くの投資家も承知している。

それでもDWSのデービッド・ビアンコ米州最高投資責任者は、原油価格が1バレル=5ドル下がるごとに、S&P総合500種企業の1株当たり利益も1─1.50ドル減少すると推計する。IBESデータでは、今年のS&P総合500種企業の1株利益は162.83ドルとなる見通しだ。

影響はエネルギー企業だけでなく、エネルギー業界を顧客とする製造業にも及ぶ。航空会社や消費関連企業が燃料価格下落の恩恵を受けることも考慮に入っている。

ビアンコ氏は「S&P総合500種は、コモディティ生産企業が及ぼす影響がコモディティ消費企業の影響よりもずっと大きく、コモディティ高は増益、コモディティ安は減益につながる。構成企業全体の収益性という点で、コモディティ価格は最も信頼度の高い相関係数の1つだ」と述べた。

ロイター
Copyright (C) 2018 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、9月前月比+0.3%・前年比+3.0% 

ワールド

加との貿易交渉「困難」、トランプ氏の不満高まる=N

ワールド

ロシア中銀、0.5%利下げ 米制裁で不確実性高まる

ワールド

カナダ首相「再開の用意」、トランプ氏の貿易交渉終了
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    韓国で「ふくしま」への警戒感払拭? ソウル「日韓交流…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中