コラム

レバノン首相暗殺容疑に新事実?

2009年05月27日(水)04時52分

 6月7日のレバノン総選挙を2週間後に控えた5月24日、ドイツのシュピーゲル誌(電子版)は衝撃的な記事を掲載した。

05年にレバノンのラフィク・ハリリ元首相が暗殺された事件に関し、イスラム教シーア派組織ヒズボラの関与を示す新たな証拠が見つかったという。事件を審理するレバノン国際特別法廷から得た情報だとしている。

 記事によれば、レバノンの治安当局は容疑者たちが使用していた携帯電話がヒズボラの民兵たちの携帯と交信していたことを突き止めた。さらに、容疑者の1人が「疑惑の」携帯電話でガールフレンドに電話したときの通信傍受に成功。イランで訓練を受けたヒズボラの構成員アブ・アルマジド・ガムラッシュであることが判明したという。

 この記事には疑わしい点がいくつかある。まず、記事全体が1人の匿名の情報提供者の話だけに基づいていること。

 総選挙を控えたこのタイミングも怪しい。ヒズボラは、故ハリリ元首相の息子が率いるスンニ派の与党・未来運動と選挙戦を展開している。ヒズボラのイメージダウンを狙うスンニ派の作戦なのかもしれない。

 記事が指摘するハリリ暗殺の動機も説得力に欠ける。ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララは5月25日、シュピーゲルの記事は「イスラエルの陰謀」だと一蹴した。

 確かにヒズボラの勢力は拡大を続けており、エジプトで破壊活動を計画していたことも明らかになっている。しかし、ヒズボラがハリリ暗殺に関与したとするのは、レバノンにおけるこれまでのヒズボラの位置付けを考えれば、最大の過大評価といえる。

 レバノン国際特別法廷は新しい証拠について公式には公表していない。だが4年間の捜査の成果を明らかにするときが来れば、必ずや中東全体に重大な影響を与えるはずだ。

――デービッド・ケナー


Reprinted with permission from FP Passport, 28/5/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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