コラム

まだまだあるぞ! 日本のムダ

2009年12月15日(火)19時09分

今週のコラムニスト:コン・ヨンソク

 今年の流行語大賞は「政権交代」が選ばれたが、個人的には、なんといっても「レンホウ」が最もインパクトがあったと思う。そこで今回は、僕なりに「まだまだある、ニッポンのムダ」を「仕分け」してみたい。それも、ムダなダム建設などといった予算面ではなく、日常生活におけるムダが仕分け対象だ。

 では、日本の象徴でもあり自慢でもある電車からメスを入れよう。まず、大都市圏の電車の時刻表をやめよう。日本の電車はテレビゲームになるほどにパンクチュアルで素晴らしい。とりわけ、ダイヤが滅茶苦茶なロンドンから来た人はそう思うだろう。だが、時刻表どおりでなくても電車は5〜10分に1本くればいい。実際、結構ダイヤ乱れているではないか。始発と終電だけ明記されていれば十分だと思う。

 また、JR中央線は途中の二駅で特別快速の待ち合わせをしているが、こんな面倒くさいこともやめよう。たかだか10分早くなるために、どれほどの苦労があるだろうか。「お急ぎの方」は5〜10分早くなるかもしれないが、待ち合わせで多くのお客さんが迷惑を蒙ることを考えれば、五十歩百歩だ。

 ロンドンの電車のように、いつ「Calling」のアナウンスが来るかわからず、途方もなく待つこともまた、たまには都会のオアシスになるものだ。先に出発した電車が先に着く。これも公平でいいではないか。複雑な世の中、もっと単純に行きましょう!

■一品で「お揃いでしょうか?」

 電車といえばアナウンス。ホームに入る時と扉が閉まる時、JRの複数のホームでは競い合うかのように女性の声の機械音と車掌の声とアラーム音が乱舞している。電車が来るのは見ればわかるし、案内もどっちか一つにしてくれないとうるさくてかなわない。

 それ以外のあらゆる場面での機械の案内音も、最低限にする条例をつくってほしい。駐車券の精算をしようと立っているだから、「駐車券を入れてください」といわれなくたってわかっている。人間はそんなにバカではない。いや、過剰な案内と親切が人間を考えない動物にしているのかもしれない。

 電車の中やホームの灯りもムダに明るい。防犯も大事だが、こんなに明るくしなくてもいい。終電が過ぎてもなお、ホームが明るすぎる場合も多い。灯りは東京のいたるところでムダに光っている。街灯やマンションもそうだし、大学など公共といえる施設でも照明やエアコンのつけっぱなしはみんなで注意しよう。

 次に飲食店。まず、注文は繰り返さなくていい。一品しか頼んでいないのに、「ご注文の品はお揃いでしょうか?」というのは、ケンカをふっかけているとしか思えない。また、心のこもっていない「ごゆっくりどうぞ」という言葉も嫌味に聞こえてならない。僕にみたいにカフェで仕事する人からすると、ほっといてくれることに心底感謝の念が沸く。

 居酒屋の「お通し」もいらない。特にチェーン店系の冷えたお通しは特にひどい。このご時勢、そう頻繁に飲みに行けるわけでもないので、最初に口にするつまみを選ぶ権利ぐらい与えてくれ。世界で日本にしかない「礼金」も要らない。こっちが狭い部屋に高い家賃払うのだ、礼金を払うべきは大家の方ではないだろうか。

 ATMの時間外手数料は誰のため? こちらが自分のお金を使おうといっているのに、時間外に何の意味がある? それに夜や休日こそ、急にお金が必要になるのではないか。振込みもそんなに手数料が必要か? 日本の消費が低迷しているのは、銀行の手数料のせいかもしれない。

■人生にはときにムダも必要だ

 東京には信号も多すぎる。しかも、道路も狭いのに歩行者信号がムダに長い。渡るのに時間のかかる方については、運転者が市民感覚で臨機応変に対応したらいいではないか。CO2削減が義務付けられる今日、この修正は緊要だ。以前にもこのコラムで少し触れたが、警察の自転車検問もいらない。ムダな努力でお疲れの警官のみなさんにはこの冬、イタリア映画の名作『自転車泥棒』でも観てもらおう。

 報道・情報番組の元アイドル出身のコメンテーターもいらない。悪いが、あなたたちに社会問題や政治外交のことを語られたくはない。また、環境問題を熱っぽく語る報道番組の無意味に凝ったセットやフリップ、松井やイチローの似ていないバカデカイ人形もいらない。

 ムダな会議も多すぎる。もはや根回しで事前に方向性が決まっているならば、しかるべき人たちが勝手にやってくれていいのではないか。お中元、お歳暮、年賀状文化にバレンタインとクリスマス文化もほどほどに。井上陽水や矢沢栄吉にもフラれた紅白なんていらない。

 とはいえ、ムダもまた人生には必要だ。昔あった「空き地」は子供達の貴重な生活空間だったし、朝礼での校長先生のムダに長い話は、他のことを考える時間を子供達に与え、想像力を育んだ。必要なムダを残しながら、本当のムダを除去することができるか、そのような知恵は、ムダと思われることから生まれるかもしれない。

 そんなお前の座右の銘は何かって?
「人生にムダヅモなし!」。それではみなさん、よいお年を!

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

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例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

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