コラム

同じ戦地を取材する愚かさ 

2009年06月17日(水)15時24分

 フェースブックに寄せられたメッセージに返事を書き終えたところで、後藤由美(リマインダーズ・プロジェクト代表)のコメントが目に留まった。こと写真に関する由美のコメントはいつも素晴らしいから、注意して読むようにしている。

 この日はニューヨーク・タイムズ紙の記者チームがアフガニスタンで撮影した映像にリンクが張ってあった。

 この映像そのものに特筆すべきものはない。よくも悪くもない。まっとうなジャーナリズムだが、腹が満たされる「食事」というよりは、つまみぐいの「スナック」といった内容だ。
 
 私の目を引いたのは映像そのものではなく、撮影地だった。コレンガル渓谷はアフガニスタン北東部の僻地。2年ほど前に数名のジャーナリストがこの地を訪れ、タリバンと占領軍の間で綱渡りをしながら生きる村人と、数名のアメリカ軍兵士を取材。危うい現実を浮かび上がらせた報道が高く評価された。

 以来、マスコミが押し寄せ、同じ話を繰り返し伝えている。なぜ、こういうことになるのだろう。

 アフガニスタンの複雑な内情をとらえたいのか。そうだとしても、すでに優れた報道のあるネタを焼き直す必要があるだろうか。別の場所を取材したほうがずっと有意義だろう。そうすることで、コレンガルの事情が特殊なのかそうでないのかがわかれば、私たちも勉強になる。

 記者の関心を他の場所からそらすために、米軍の広報があえて同じ兵士たちを取材させているのだろうか。もしそうならば、真実が語られるべきだ。

 あるいは記者が2匹目のドジョウを狙ったのか。だが、記者の何人かを知る私に言わせれば、それは考えにくい。彼らは自信のなさから他人の仕事を真似るほど、ヤワな記者ではない。

 いずれにせよ、コレンガル渓谷はリアリティー番組の様相を呈し始めた。私たちはアフガニスタンについて、もっと知る権利がある。さほど重要でもない辺鄙な谷の話を繰り返し聞かされるのは、もううんざりだ。

 記者たちが安易に押しかけるようになったコレンガルは、もはやジャーナリストの役には立たない。

プロフィール

ゲイリー・ナイト

1964年、イギリス生まれ。Newsweek誌契約フォトグラファー。写真エージェンシー「セブン(VII)」の共同創設者。季刊誌「ディスパッチズ(Dispatches)」のエディター兼アートディレクターでもある。カンボジアの「アンコール写真祭」を創設したり、08年には世界報道写真コンテストの審査員長を務めたりするなど、報道写真界で最も影響力のある1人。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBが金利据え置き、4会合連続 インフレ見通し一

ビジネス

英中銀、5対4の僅差で0.25%利下げ決定 今後の

ワールド

IS、豪銃乱射事件「誇りの源」と投稿 犯行声明は出

ビジネス

ECB、成長率とインフレ率見通し一部上方修正=スタ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 7
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 10
    欧米諸国とは全く様相が異なる、日本・韓国の男女別…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story