コラム

あまりに悲惨なソマリア

2011年11月18日(金)11時17分

 ソマリア難民の取材にジブチに行ってきました。ソマリア沖の海賊から船舶を守るため、日本の自衛隊が、船の護衛と上空からの海賊探しを担当。そのための活動拠点を北東アフリカのジブチに置いています。

 そのジブチには、隣接するソマリアから、連日大量の難民が陸路やってきます。自衛隊の活動と、ソマリア難民の様子の両方を取材したのです。

 ジブチには2万人の難民がいます。私が取材した難民キャンプは、そもそもの収容人員が7000人。定員オーバーで、人口82万人の小国ジブチには大変な負担です。家族と離れ離れになったり、銃撃で負傷したり、子どもを置いてきたり......。難民キャンプには、そんな悲劇が日常のごとく転がっていました。

 ソマリアで長年続く内戦。国内産業は破壊され、仕事のなくなった人々は、海賊となって沖合を航行する船を襲います。内戦を逃れて、多くの人が難民となる。海賊と難民は、原因が同じなのです。

 ソマリア難民は、私が取材したジブチにもやってきますが、圧倒的多数はケニアに向かいます。ソマリア南部で深刻な旱魃が続き、食料不足に陥っているのに、この地域はイスラム過激派のアルシャバブが支配。人々は、飢えとアルシャバブの支配から逃れるため、隣接するケニアに入ってくるのです。

 このため、ケニアには54万人の難民キャンプが出現しました。いまや世界最大のキャンプです。その難民キャンプを、アルシャバブが攻撃。医療支援活動をしていた「国境なき医師団」のスタッフが誘拐されてしまいます。

 これに切れたのが、ケニア政府。遂にケニア軍が越境してソマリアに入り、アルシャバブを攻撃しました。

 しかし、順調にはいっていないようです。本誌日本版11月9日号の「悲劇を助長するケニアの怠慢」という記事には、こう書いてあります。

「雨期が終わるまで待つべきだったのかもしれない。ケニアが先月ソマリアに送り込んだ軍隊は今、文字通り泥沼と格闘している」

「だがソマリアへの軍事介入は規模が小さ過ぎるだけでなく、時期も遅過ぎた可能性がある。アメリカがアフガニスタンやイラクで痛いほど学んだように、アルシャバブのような武装組織を根絶するのは容易ではない」

 この記事は、こう指摘しながらも、ケニア政府は、これまで適切な対応をとって来なかったと批判しています。「ケニアはまともな国境管理さえ怠ってきた」というのです。

 ところが、その一方でこの記事は、「ソマリアに海賊行為を取り締まる強力な中央政府がない限り、ケニア軍だけでこの問題を解決できるとは思えない」と書きます。

 だったら、ケニア軍の対応を批判しても仕方ないじゃないか、と突っ込みを入れたくなります。「アメリカも、この地域で最大の軍事力を誇るエチオピアも、ソマリア内戦を解決しようと試みて失敗してきた」というのですから。

 ケニア政府には、それがわかっていたから、早期介入を躊躇していたのかもしれません。きっと早期に介入したら、「侵略行為だ」と批判されたでしょう。しかし、介入しないと、「ケニアの怠慢」と書かれる。どっちにしても、ケニアは困惑するばかりではないでしょうか。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州エアバス、A320数百機点検へ 胴体パネル問題

ビジネス

英HSBC暫定会長、常任職求めない意向=CEO

ビジネス

英ファンドマネジャー、大半が来年為替ヘッジ拡大を予

ワールド

米下院補選、共和党候補の勝利確実に テネシー州
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 5
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story