コラム

「支える人を支えたい」慢性疾患の重症化予防ベンチャーに参画した研究者 小坂志保

2016年03月08日(火)17時10分

厳しい食事管理でぎすぎすしがちな家族の食卓も救いたい、という小坂志保CRO  写真:重本典明

 日本人の成人のうち8人に1人が腎臓病、6人に1人が糖尿病の患者および予備軍だと言われる。高血圧は予備軍を含むと約4,300万人。日本人の3人に1人の割合になる。これだけ多くの日本人が慢性疾患に苦しんでいる。「いえ、苦しんでいるのは患者だけではありません。家族も同様に苦しんでいるんです」。上智大学で教育・研究に携わる傍ら、それらの知見をより多くの対象者へ還元するために株式会社エスケアの最高リサーチ責任者(CRO)を兼任しアドバイザーとして参画している小坂志保氏はそう指摘する。

食卓が幸福の場から不幸の場に

 小坂氏は、慢性疾患看護の研究者であり今までに慢性腎臓病・腎移植・高血圧患者を対象とした研究を行ってきた。大学教員になる以前は臨床看護師として、何人もの患者に寄り添ってきた経験もある。「慢性疾患はメンタルヘルスにも悪影響を与えます。うつになる患者さんもいらっしゃる。それを見ている家族まで、しんどくなってくることもあります」。慢性疾患では日常の食事管理が病状の安定の為に非常に大切であるが、その管理が非常に難しく、満足な食事を実践出来ている家庭は多くない。例えば、家族が塩分に気をつけて食事を作っても「まずい!」と、はねのける患者もいる。醤油をかけて、より塩分を多く摂取してしまう人もいる。

「家族としては、やってられなくなりますよね」。同社最高経営責任者(CEO)の根本雅祥氏は言う。同氏の父親も腎臓病の患者だ。症状が悪化するにつれ食事制限が厳しくなり、母親の調理負担が増えていった。「あれもだめ、これもだめ。じゃあ何だったら食べられるんだ。母親は、もう嫌だってなりました。食卓が崩壊しました。本来なら食卓という家族の幸福の場が、不幸の場に変わっていったんです」。

【参考記事】行き過ぎた「食の安全」志向から、もっとゆるい食文化へ

 株式会社エスケアは、食事サポートを通じて慢性疾患の重症化予防を行うベンチャーだ。同社では、当事者本人をサポートすることはもとより「支える人を支える」をテーマに、医師・看護師・管理栄養士が事業の監修として関わり、現在は減塩を目的にした3つの事業領域に乗り出している。1つ目は、スマートフォンを通じたグループコーチング。慢性疾患にとって最大の「敵」の1つが塩分。1日の塩分摂取量を6グラム以下に抑えることを目的に、食生活に関するコーチングを行う。これは減塩が必要な当事者だけにコーチングを行うものではなく、日々の調理を行う人が別にいる場合はその人にも参加をしてもらい、日常の減塩調理方法も習得してもらおうというものだ。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story