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日本人コーヒー生産者が語るコロンビア

松尾彩香|コロンビア

コロンビア麻薬王が残したカバが事故死 急がれる繁殖対策

©️YouTube - Un hipopótamo muere atropellado en carretera de Colombia | AFP

80年代に麻薬王パブロ・エスコバルが私有地に動物園を建設するために密輸入した4頭のカバ。パブロの死後から40年、動物園から逃げ出したカバは160頭前後にまで繁殖し、これらの野生化したカバへの対応について様々な議論が交わされています。

マグダレナ川周辺を住処として生息しているこれらのカバについては、近隣住民や漁師、コロンビアの生態系に危険を及ぼす恐れがあるとして以前から専門家たちが警鐘を鳴らしていました。増えすぎたカバの頭数をコントロールするため、これまで様々な方法の可能性について話し合われてきましたが、カバが生息している地域の住民らはカバを地元のシンボルとして可愛がっており殺処分には強く反対しているため、コロンビア政府は一番有効と考えられる殺処分を行うことができずそれ以外の方法でカバの繁殖を抑えることが求められているのです。2021年10月にはアメリカから遠方から投与できる避妊薬の寄付を受け繁殖防止に一歩前進しましたが、今のところ根本的な解決には至っていません。そんな中、最近またこのカバに関するニュースが国内で話題になっています。

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©️iStock - USO

【参考・過去記事】

「麻薬王のカバ」VS コロンビア 新しい避妊薬で繁殖阻止できるか?

コロンビアで大繁殖のカバ、特定外来種リスト入り間近

 

カバを海外に輸送

アンティオキア県アニバル・ガビリア知事は3月7日、これらの野生のカバを海外に輸送するプロジェクトを進めていることを発表しました。現在送り先として有力候補に上がっているのはメキシコとインドの野生動物レスキューセンターで、頭数はメキシコに10頭インドに60頭を予定しているようです。すでにコロンビア側は環境省と動物検疫所には手続きを済ませており、これらの許可が下りれば輸送に向けて大きな一歩を踏み出すことになりますが、カバの輸送というものは非常に難しくコストがかかるものになります。重さ2トンを超える縄張り意識が強く凶暴な野生のカバを捕獲し、メデジンにあるホセマリアコルドバ空港まで陸路で輸送。その後飛行機に積み目的地まで運ぶまでにおよそ350万ドルものコストがかかることが予想されていますが、それらコストは受け取る側(メキシコ・インド)が負担しなければいけないと言われています。現在輸送についての話し合いが行われているとは言っても正式な契約にはまだ至っていないため、かかる費用や手間によっては相手側がこのプロジェクトの辞退を申し出てくる可能性も否定できないでしょう。

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©️YouTube -Qué causa la introducción del hipopótamo en Colombia - TvAgro por Juan Gonzalo Angel Restrepo

 

カバとの衝突事故発生

4月11日首都ボゴタとメデジンを結ぶ幹線道路上で、野生のカバと一般車両が衝突する事故が起きました。ドライバーは幸い軽傷で済んだようですが車は大破し、この事故によって追突されたカバは命を落としています。去年11月にもカバとバイクに乗った男性が接触事故を起こし男性が腕を骨折する事故が起こりましたが、カバが死亡するほどの事故は今回が初めて。また、カバに噛まれるなどカバと人間との間に起きた事故は今年3件目ということで、今回の衝突事故はカバの頭数が増え人間との共存のバランスが崩れてきていることが明らみとなった事故となりました。このカバ問題に取り組んでいる環境保護団体コルナレは事故にあったカバからサンプルを採取し、今後の研究に使用していくようです。ガビリア知事はこの事故について自身のツイッターで「この事故はメキシコとインドにカバを輸送する重要性を再確認する出来事となった」と述べ、グスタボ・ペトロ大統領とムハマド環境大臣に対して輸送を早急に行えるよう協力を呼びかけました。

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事故にあったカバ。このカバは去勢済みだった。©️YouTube - Un hipopótamo muere atropellado en carretera de Colombia | AFP

今後の対応

環境団体コルナレのダヴィッド・エチェベリ代表は、カバの輸送について「問題を緩和することにはなるが解決にはならない」とコメントしています。確かにこの輸送でコロンビア国内のカバの頭数は一時的に減らすことはできますが、時間が経てばまた同じように繁殖を繰り返すため今回の対応は時間稼ぎにしかすぎないのです。コルナレやフンボルト研究所などから研究者28人が参加して作成された調査書には狩猟の必要性について記されている他に、現在取り組んでいるような別の施設に輸送する方法、または囲いを作りそこにカバを追い込む方法など、様々な可能性について触れられており、ムハマド環境大臣はこの調査書をもとに今後の対応や予算などを決定していくことを表明しています。

「コカインとカバ」制御不能な2つの置き土産を残して死んだ麻薬王パブロ・エスコバル。パブロの呪縛からコロンビアが解放される日はいつか訪れるのでしょうか。

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住

ブログ: http://campesinita.com

Twitter: @maon_maon_maon

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