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「学部+修士課程」5年の一貫教育は誰のため?

2025年10月15日(水)11時40分
舞田敏彦(教育社会学者)

文系にあっては、大学院で学んだことの効果を説明しにくい。となると、年功賃金のこともあって「年だけ重ねた人に来られても困る」と、企業の側は採用をためらいがちだ。女子の場合、「学のある女は要らぬ」といった偏見が加わることも少なくない。

そのためか、文系の学部卒業者の大学院進学率はすこぶる低い。人文科学では4.5%、社会科学では2.8%でしかない(2024年春)。上記の政策は、とりわけ文系学生の大学院進学率を高めることを狙っているのだろうが、行き場がないという現実がある限り、修業年限を短くしたところで、大学院への進学者は増えそうにない。

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地方では、大学院に進もうとする女子が奇異の眼差しで見られることもあるだろう。<図2>は、学歴別の生涯未婚率を男女で比べたものだが、男性は学歴が高いほど未婚率が低くなるが、女性はその反対だ。どの地域でもそうだが、地方では女子の院卒となると生涯未婚率は一気に高まる。筆者の郷里の鹿児島県だと、大卒は22.3%だが院卒だと33.6%という具合だ。女子の院進学を阻む一因として、地方のジェンダー慣行もあるように思う。

教育は社会と密接に関連しているのであって、社会から隔絶した「孤島」の中で教育改革の議論をしてはならない。「学部+修士課程」の一貫教育を制度化するとのことだが、実のところ社会の需要を踏まえてのことではなく、大学の延命を図ろう、という目論見なのだろう。少子化で学部の入学者増(維持)は見込めないので、在学年数を延ばして収入を確保する、つまり「ヨコに延ばせないのでタテに延ばす」ということだ。

冒頭で見たように、他の先進国と比較して日本では大学院卒が著しく少ない。院卒の人材をもっと増やすべきとは思うが、「学部+修士課程」の一貫教育を設ける、という教育制度の改革だけでは、高学歴ワーキングプアの増加のような、よからぬ結果を引き起こすだけとなる。1990年代の大学院重点化政策の二の舞だ。

人材を受け入れる社会の側、具体的には企業の採用慣行の改革も伴わなければならない。まずは、高度専門職の入職条件として大学院卒の学歴を求めることから始めてはどうか。学校の教員も対象に含めるべきだ。プロフェッショナルとしての威信や尊厳の源にもなるだろう。

<資料>
文科省『学校基本調査』(2024年度)
総務省『国勢調査』(2020年)

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