バングラデシュの悪夢──ハシナ政権の崩壊後1年、軍と過激派が支配し経済も破綻の危機
A SOUTH ASIAN TIME BOMB
ユヌスは包括的な改革と民主的選挙を約束したが、選挙は繰り返し延期された。一方で暫定政権は、大規模な粛清に着手した。最高裁から長官と5人の判事を追放し、バングラデシュを独立に導いた国内最古で最大の政党であるアワミ連盟の活動を全面的に禁止した。
ハシナ派と見なされた弁護士や学者、ジャーナリスト、アーティストらは次々と収監され、今年2月以降だけで1万人以上が身柄を拘束されたという報道もある。超法規的殺人や収監中の拷問も日常化している。
さらに深刻なのは、イスラム過激派の復権だろう。ユヌスが名目上率いる暫定政権(軍部と宗教指導者の連合だ)は、テロと結び付いたイスラム聖戦主義組織の活動禁止を撤回し、悪名高い指導者らを釈放した。過激派の一部は閣僚や政府の要職に就き、彼らに連なる暴徒は敵と見なした人々を公然と恐怖で支配している。
襲撃は仏教徒、キリスト教徒、ヒンドゥー教徒、先住民、イスラム過激派が異端と見なす宗派信徒にも及び、加害者は処罰されない。「慎みのない」服装の女性は辱められ、暴行される。
さらに事態を悪化させているのが、崩壊しつつある経済だ。成長率は急落、対外債務は膨張、インフレは12年ぶりの高水準。投資家の信頼は失われ、株式市場は5年ぶりの低水準に沈む。失業の増加と生活水準の低下は、過激化と社会不安の温床となる。