最新記事
韓国

韓国新大統領にイ・ジェミョンが就任 初日の執務室で見たのはまさかの......

2025年6月4日(水)21時35分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

顕忠院参拝と宣誓式

午前10時には、イ大統領は歴代大統領の慣例に従い国立ソウル顕忠院を訪問。国立ソウル顕忠院は、戦没者や国家功労者を祀る韓国を代表する追悼施設であり、大統領就任時の公式な参拝場所とされている。献花と黙祷を行ったイ大統領が残した芳名録には「共に生きる世の中。国民が主人である国、国民が幸せな国、国民と共に作ります」と記されていた。

11時からは、国会ロテンダーホールにて略式の大統領宣誓式が行われた。ロテンダーホールは国会議事堂の中央に位置する円形空間であり、韓国政治の中枢を象徴する公式行事の場として知られている。イ大統領は「皆の大統領になる」と述べ、「統合」「実用」「成長」の3つのキーワードを掲げ、新政権の基本方針を明確にした。

衝撃の龍山大統領室

午後、イ大統領はソウル・ヨンサン(龍山)の大統領室に初登庁したが、そこで直面したのは、政権の中心とは思えない「何もない空間」だった。

執務室にはプリンターやパソコンがなく、紙も鉛筆も用意されていない。カン·ユジョン(姜裕貞)報道官は「物理的に業務が不可能な状況」と表現した。イ大統領は「まるで墓のようだ」と語り、さらに「署名して決裁したいが、決裁システムが存在しない。人事について発令しようと手書きで書いても押印するための朱肉がない」と嘆いた。

あまりにひどい有様を受けて、イ大統領は直ちに前政権で離任した一般職公務員の即時復帰を命じ、最低限の行政機能の復旧に動いた。

異例の警護体制の理由は

政権の始動とともに、大統領警護体制にも通常とは異なる動きが見られた。

本来であれば、大統領の就任と同時に警護業務は大統領警護処に全面移行されるが、今回は大統領候補時代に警護を担当していた警察による専担警護隊が引き続き主導している。警察庁は「イ大統領の警護については、候補当時の体制が維持されている」と発表した。

その背景には、昨年12月3日の戒厳令以降における警護処の対応に対するイ大統領の不信があると見られている。警護処関係者の中には、ユン前大統領に対する逮捕令状執行を不当に阻止したとして、警察による捜査の対象となっている人物も含まれているからだ。

法務部長官のみ辞表を受理した理由

またイ大統領は午後に新政権の主要人事も発表した。国務総理候補にはキム・ミンソク議員、国家情報院長候補にはイ·ジョンソク(李鍾奭)元統一部長官など、要職を一気に固めた。

また、ユン前政権の国務委員(日本の大臣に相当)が一括して提出した辞表のうち、パク·ソンジェ(朴成宰)法務部長官の辞表のみを受理。他の閣僚については当面の留任とし、「国政の連続性」を確保しつつ、検察改革を進める意志を示した。パク前長官の辞表だけを受理したのは、前長官が内乱に関与した疑いで検察と警察の捜査対象となっており、イ大統領が「内乱終息」意志を再び強調したという解釈が出ている。

また検察改革がイ·ジェミョン政府の核心課題の一つに挙げられるだけに、ユン前大統領の検察時代の先輩であるパク前長官に検察組織を監督させないという思惑も内包されたものと見られる。

国民統合はなるか?

この日、精力的に就任初日の職務をこなしたイ大統領だったが、そのネクタイにも「国民統合」のメッセージが込められたようだ。赤と青、そして白色が混ざったネクタイを締めていた大統領だったが、これは共に民主党と国民の力を象徴する色がすべて含まれているという点で、戒厳令以降、対立が深まった保守と革新それぞれの支持者の融和を図ろうとする願いが込められたものだと見られている。

果たして、深まった対立は解消できるのか。これからのイ・ジェミョン大統領に課せられた大きな課題だ。

投資
「FXで長期投資」という投資の新たな選択肢 トライオートFX「世界通貨セレクト」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中