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韓国次期大統領の有力候補者イ・ジェミョンのコンセプト「木鷄之徳」って何?

2025年5月26日(月)18時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

中道保守層取り込みの戦略

マーケティングの観点からは、中道保守層の取り込みも重要な戦略となっていた。A氏は「共に民主党が勝つしかない構図を作るためには国民の力の拡張性を防がなければならなかった」として「そのためには保守陣営を先制することが必要だった。彼らが反発するほどさらに右側に追い込まれ、結局『極右』として孤立する結果につながるだろう」と分析している。

この戦略に基づき、イ候補はテレビ討論会では他の候補の意見に積極的に共感を示し、自らの発言時間まで譲渡するという姿勢を見せた。イ候補の参謀は「討論で負けた方が勝ち」と表現し、「他人と言葉で戦って勝つより、他人の話に傾聴する姿勢を見せ、『態度』で勝つ」戦略を強調している。

白鵬、そして安倍元首相も口にした「木鷄之徳」

公式スローガンと並行して、イ・ジェミョン候補は自らのリーダーシップの核心コンセプトとして「木鶏之徳」と「泰然自若」という四字熟語を掲げている。これらに込められた哲学は、単なるイメージ戦略を超え、イ候補の政治的アイデンティティにも関わっているという。

「木で作った鶏の徳」を意味する「木鶏之徳」は、中国古典「荘子」の達生篇に登場する故事に由来する。紀悄子(きせいし)という闘鶏の名人が王のために最強の闘鶏を育てる話だ。紀悄子は闘鶏を訓練し、最終的に「まるで木鶏のように泰然自若としており、他の鶏が鳴いても全く動じない」状態に到達させた。これは完全に自身の感情を制御できる能力、内なる平静さを獲得した状態を象徴している。

日本においても「木鶏」の概念は深く根付いており、特にスポーツや政治、ビジネスの世界で重要な精神的指針として尊重されてきた。昭和の大横綱・双葉山定次は69連勝という当時の最高記録が途絶えた際、師である安岡正篤に「ワレイマダモッケイタリエズ(我、未だ木鶏たりえず)」と打電した。この謙虚な姿勢は日本社会に深い感銘を与えた。現代においても、横綱・白鵬が63連勝で敗れた際に「いまだ木鶏たりえず、だな」と述べるなど、角界では最高の精神的境地として「木鶏の境地」が語り継がれている。

また、政治の世界でも2015年2月、当時の安倍晋三首相が国会の予算委員会で野党の追及に対して感情的になり、「日教組は補助金をもらっている」「民主党議員が日本教育会館から献金を受けた」と発言したが、これらは事実誤認であった。後日この不適切発言を反省する際、安倍首相は「『全くまだ木鶏たり得ず』だ。至らなさは反省する」と述べた。野党のやじに感情的に反応してしまう自身の姿勢を、「木鶏」という東洋の古典的価値観に照らして省みたのである。

また、「泰然自若」も一脈相通じる四字熟語で、「どんなことに遭っても動揺せず平穏な状態を維持する姿」を意味する。韓国・西江大学哲学科のチェ・ジンソク名誉教授によれば、「泰然自若な人は外部のどんな刺激にも自分だけの流れに動揺を起こさない」存在であり、「競争に陥らずむしろそれから抜け出し、その構図自体を支配する。自分が懸命に勝つのではなく、相手が自滅することで勝利者の地位を長く維持する」という深い戦略性をもつという。

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