最新記事
フランス

混乱続きのフランス政治に「内閣不信任の衝撃」想定可能な3つのシナリオ

The French Direction

2024年12月12日(木)20時22分
ロマン・ファティ(オーストラリア国立大学歴史学上級講師、パリ政治学院歴史センター協力研究員)
混乱続きのフランス政治に「内閣不信任の衝撃」想定可能な3つのシナリオ

内閣総辞職後、国民向けにテレビ演説をするマクロン(12月5日) CHRISTIAN HARTMANNーREUTERS

<「マクロン流」は断末魔。バルニエがエマニュエル・マクロン大統領に辞表を提出し、内閣は総辞職。右派首相の辞任と深まる危機>

混乱続きのフランス政治が新たな衝撃に襲われた。フランス国民議会(下院)は12月4日、右派のミシェル・バルニエ首相率いる少数連立内閣に対する不信任決議案を可決。翌日、バルニエがエマニュエル・マクロン大統領に辞表を提出し、内閣は総辞職した。

きっかけは、バルニエ政権が突き付けた緊縮型の来年度予算案だ。議会の承認を得られる見込みがないなか、バルニエは憲法の特例措置を適用して採決なしで、予算案を強行採択。これに反発した左派連合の新人民戦線が内閣不信任案を提出し、極右の国民連合(旧国民戦線)が同調した。


フランスで内閣不信任案が可決されたのは1962年以来で、実に62年ぶりだ。求心力低下の窮地にあるマクロンは、次期首相選びという新たな難題に取り組まなければならない。

急進左派と極右は大統領の任命責任を問うているが、マクロンが辞任することはなさそうだ。一方、国民議会は来年7月まで解散できない。憲法の規定により、解散・総選挙から1年間は新たな選挙を実施できないからだ。それまで、フランス政治は不安定な状態が続くことになる。

新首相の任命まで、どれほど時間がかかるかは分からない。今後については、想定可能なシナリオが3つある。

第1に、自身が率いる中道派と自らの政策を守るべく、マクロンが新たな過半数勢力をまとめ上げようとする。それには伝統的右派と中道左派の両者を取り込む必要がある。

だが、中道左派がマクロン支持に回る可能性は低い。新人民戦線にとどまるほうが、得るものが大きいからだ。中道左派から急進左派までが加わる新人民戦線は、一致団結できれば、真に左派的な改革を実行できる。

経済の先行きも不透明

そこで浮上するのが、左派主導政権という第2のシナリオだ。だが、新人民戦線は議会最大会派とはいえ過半数議席を確保しておらず、中道派と手を組む必要があるだろう。これほど寄り合い所帯的な政権では、法案をめぐって交渉を繰り返すことになる。

3番目のシナリオはさらに問題含みだ。予算案を変更するという条件付きで、マクロンは再びバルニエを首相に任命するかもしれない。

いずれにしても、次期政権は短命に終わる可能性が高い。下手をすれば、次の国民議会選挙までに数回、政権が代わる事態も考えられる。フランス社会で深まる分断は、次の選挙後も解消できないだろう。

来年度予算は当面、後回しだ。アメリカと異なり、フランスでは予算切れによる政府閉鎖は起こらない。新たな予算案の成立が間に合わない場合、今年度予算を踏襲する特別法で対応することになる。

しかし、フランスの財政赤字の対GDP比は今や5%を超え、3%以下というEUの財政規律に違反している。次期政権がどんな形であれ、新型コロナのパンデミック以来、大幅に膨らむ財政赤字の削減圧力に直面するのは間違いない。消費者信頼感指数や成長率の低下も頭痛のタネだ。

さらに、フランス国債利回りは上昇している。利払い費用がかさめば、より多くの税金が借金返済に投入される。生活費危機に悩む国民の反発は強まるだろう。四面楚歌のマクロンとフランス政治の行方は大荒れ模様だ。

The Conversation

Romain Fathi, Senior Lecturer, School of History, ANU / Chercheur Associé at the Centre d'Histoire de Sciences Po, Australian National University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.



ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中