ミャンマー内戦に巻き込まれ、強制徴兵までされるロヒンギャの惨状

AN OVERLOOKED TRAGEDY

2024年9月11日(水)17時17分
増保千尋(ジャーナリスト)

newsweekjp_20240909093558.jpg

強制的に徴兵されたフセイン CHIHIRO MASUHO

5月に難民キャンプで強制徴兵されたフセイン(仮名、15)によれば日中、露店にいたところ、10人ほどの男たちに囲まれ、小銃を突き付けられてキャンプ内にある彼らの隠れ家に拉致されたという。男たちは界隈では、RSOのメンバーとして知られていた。夜の8時頃、他の被害者と共に車で国境付近まで連れて行かれ、国境の川を船で越えるとミャンマー軍基地に収容された。不潔で悪臭のする部屋に100人近い被害者と共に軟禁され、食事はわずかな米と野菜が日に1回提供されるだけだった。

なぜ自分たちがここに連れてこられたのかと兵士に問うと、数発殴られた後、「前線に資金を運ぶのがおまえの役目だ」と告げられた。携帯を没収されて難民キャンプにいる家族に連絡することもできず、「ここで死ぬのか」と絶望したという。


何度か逃亡を試み、3度目でようやく成功。再び国境の川を渡る際、船頭に1万5000バングラデシュタカ(約2万円)という高額な船賃を要求された。キャンプにいる父(62)に電話するように言われ、親戚中からなけなしの金を集めてもらって何とかバングラデシュに戻ることができた。取材時は、事件から既に1カ月が過ぎていたが、軟禁されて兵士に何度も殴られた恐怖が忘れられないという。

強制徴兵の被害者の中にはフセインのように無理やり軍基地まで拉致された人もいれば、市民権の付与や給与の支給などを約束された人もいる。前出のモハマドの村にも軍が徴兵にやって来て、「ラカイン人であるAAはムスリムの憎い敵なのだから、協力しろ」「拒否すれば、おまえらを殴り、村に火を付ける」などと村人を脅した。徴兵されたロヒンギャ難民はAAとの戦闘の前線に送り込まれており、既に多数の戦死者も出ている。

フセインが行方不明になってから、毎日泣き暮らしていたという父親は、再び息子が連れ去られるのではないかと不安な日々を送る。彼は切実な面持ちで「誰でもいいから、この強制徴兵を早く止めてほしい」と語る。

権力者に利用される弱者

ラカイン州ではミャンマー軍に動員されたARSAや難民に加え、AAとの戦闘でロヒンギャ、ラカインの市民双方に犠牲が出ている。AAの発表によれば、5月の時点で、彼らの勢力圏内だけでも50万人以上の国内避難民が発生している。12年と17年を彷彿とさせるような軍事的緊張も高まっている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米労働生産性、4─6月期は3.3%上昇に上方改定 

ビジネス

米新規失業保険申請は8000件増の23.7万件、予

ビジネス

米ADP民間雇用、8月は5.4万人増 予想下回る

ビジネス

米の雇用主提供医療保険料、来年6─7%上昇か=マー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中