ミャンマー内戦に巻き込まれ、強制徴兵までされるロヒンギャの惨状

AN OVERLOOKED TRAGEDY

2024年9月11日(水)17時17分
増保千尋(ジャーナリスト)

この優勢の波に乗り、23年11月に一挙に攻勢に出てラカイン州にあるミャンマー軍の拠点を次々と占拠した。地元紙の報道によれば、今年5月までに17郡区のうち9つを統治下に置いたという。ミャンマー軍がこれに応戦し、州内でAAの勢力圏に置かれたロヒンギャの村を攻撃するなか、市民が両者の戦闘の巻き添えになり、大きな被害が出ている。

母の斬首遺体を見て号泣

newsweekjp_20240909093051.jpg

タミンジョー村から逃れてきたアリは自身も足を銃で撃たれた CHIHIRO MASUHO

4~5月にかけて激戦が繰り広げられた北部ブーティーダウン郡ナッケントー村出身のモハマド(仮名、60歳)は、AAが彼の村を支配下に置こうとしているという理由で、ミャンマー軍が5月中旬に村を襲撃したと語る。妻の親戚が暮らす同郡タミンジョー村に逃れたが、今度はそこでAA側の攻撃に出くわし、複数の兵士に銃で撃たれ、足や腹部に重傷を負った。モハマドは村の惨状をこう話す。


「17年8月にも、ミャンマー軍は私の村を攻撃しました。しかし今回のほうがより多くの人が亡くなっており、7年前の危機よりも被害は大きいと感じます」

同じくタミンジョー村のアリ(仮名、16歳)は、AAによる攻撃が始まった当初、マドラサ(イスラム神学校)にいた。銃声と爆発音を聞いて家路を急いだが、自宅で目にしたのは変わり果てた母やきょうだいの姿だった。家族11人のうち6人が銃に撃たれるなどして亡くなり、残り5人も重傷を負った。母親は斬首され、さらに腕を切り落とされており、その姿を見て号泣したという。逃げるために外に出ると水田には銃で撃たれたロヒンギャの遺体がいくつも横たわっていた。その後、AAは彼の村に火を放った。「こんなひどい仕打ちをするなんて、軍もAAもどれほどロヒンギャを憎んでいるのだろう」と、アリは言う。

戦闘は今も続いており、8月5日には、バングラデシュ側に避難しようと両国間を流れる国境の川を渡ろうとしたロヒンギャがドローンなどによる爆撃を受け、約200人が犠牲になったと米CNNなどが報じた。冒頭の筆者に送られてきた写真は、その際に撮影されたもので、ミャンマー軍とAAはこの惨事の責任をなすり付け合っている。ラカイン州の戦況が悪化するなか、バングラデシュに逃れようとするロヒンギャが急増しているが、同国は現在、難民の受け入れを制限しており、多くの人が国境付近で立ち往生している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

横転の北朝鮮駆逐艦、直立状態に 衛星画像で判明=米

ワールド

米の鉄鋼・アルミ50%関税が発効、「最善の貿易交渉

ワールド

ロシア軍がウクライナ北東部で戦線拡大、スムイ州都に

ワールド

赤沢再生相が5日から訪米、関税協議のため=政府
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 4
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    女性が愛馬に「後輩ペット」を紹介...亀を見た馬の「…
  • 7
    韓国大統領選挙、最終投票率79.4% 一部では二重投票…
  • 8
    「不思議な発疹」の写真に、ネットで議論沸騰...医師…
  • 9
    【クイズ】医薬品や放射線シールドとして使われる「…
  • 10
    【クイズ】金属の錆を防ぐ「クロム」の産出量が、世…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 7
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 8
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 9
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 10
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中