最新記事
台湾

【解説】台湾総統選をかき回す「第3の男」柯文哲の正体

From Green to Blue

2023年12月7日(木)15時30分
ブライアン・ヒュー(ジャーナリスト)、レブ・ナックマン(国立政治大学助教)
野党統一候補の協議は決裂した。(左から)馬英九、柯文哲、侯友宜、郭台銘、朱立倫(国民党主席) CARLOS GARCIA RAWLINSーREUTERS

野党統一候補の協議は決裂した。(左から)馬英九、柯文哲、侯友宜、郭台銘、朱立倫(国民党主席) CARLOS GARCIA RAWLINSーREUTERS

<既成の政治家と二大政党への不満をすくい上げる「親中派」ポピュリスト柯文哲のカメレオンぶり>

来年1月13日に行われる台湾総統選挙の候補者が出そろい、台湾民衆党(民衆党)から出馬する前台北市長の柯文哲(コー・ウェンチョー)が注目を集めている。

最大野党の国民党と民衆党は直前まで候補者の一本化を模索していた。世論調査によると、野党陣営の統一候補が実現すれば、与党・民主進歩党(民進党)の頼清徳(ライ・チントー)副総統を破る可能性もあった。しかし、協議は折り合いがつかず、国民党は新北市長の侯友宜(ホウ・ヨウイー)を擁立した。

10年前の柯を思えば、誰も想像しなかった展開だ。政界に進出した当初、柯は民進党に近いとされ、もっぱら台湾独立派の政治家を支持していた。しかし、最近は親中派の政治家と緊密に連携しており、対中融和を掲げる国民党から総統選に出馬しようとしたことさえある。

民進党を中心とする「緑色陣営」から、国民党を中心とする「青色陣営」へと色を変えた柯。その政治的な変節をたどることは、彼の一風変わったポピュリズムの何が有権者の心をつかむのかを理解する上で欠かせない。

外科医だった柯が政治家に転身したのは、2014年春のひまわり学生運動の時期だった。当時の国民党政権と馬英九(マー・インチウ)総統が進めていた中国との経済統合に抗議して、学生たちが立法院(国会議事堂)を占拠したひまわり運動は、台湾にとって革命的な出来事であり、民進党がその後8年間、政権を維持する基盤となった。柯は立法府占拠の現場に駆け付け、抗議デモを支持すると表明した。

柯が最初の政治的勝利を収めたのは14年11月の台北市長選だ。無所属で出馬したが、民進党の支援を受け、ひまわり運動の活動家や民進党陣営の有権者から支持を得た。当時の柯は、進歩的な政治家を自任していた。

16年1月の総統選挙と立法院選挙で、柯は蔡英文(ツァイ・インウェン)と民進党を支持した。さらに、ひまわり運動から生まれた政党「時代力量」も支持し、政治集会で自らステージに上がることもあった。

中国との関係をアピール

しかし、16年の選挙の後、柯の色は変わり始めた。17年に台北で開催されたユニバーシアード夏季大会の最中には、中国について従来よりはるかに温厚なレトリックを使った。最も評判を落としたのは、「両岸一家親(中台は一つの家族)」と繰り返し、自分と中国とのつながりをアピールしたことだ。また、台北市長として上海市政府と新たに強固な関係を築いた。

座談会
「アフリカでビジネスをする」の理想と現実...国際協力銀行(JBIC)若手職員が語る体験談
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米CB景気先行指数、8月は予想上回る0.5%低下 

ワールド

イスラエル、レバノン南部のヒズボラ拠点を空爆

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中