最新記事
台湾

【解説】台湾総統選をかき回す「第3の男」柯文哲の正体

From Green to Blue

2023年12月7日(木)15時30分
ブライアン・ヒュー(ジャーナリスト)、レブ・ナックマン(国立政治大学助教)

中国との関係を深める柯から、民進党陣営の支持者は離れていった。17年9月に国立台湾大学構内で、中国との交流イベントに反発した学生の抗議デモが親中派と関係のある犯罪組織に襲撃されるという事件が起きた後も、柯は対中交流の重要性を強調した。

18年には、柯は国民党寄りと見なされるようになった。民進党は同年の台北市長選に独自の対立候補を立てたが、青色陣営が強い台北で国民党の候補者に勝てるのは柯であり、民進党寄りの有権者からも依然として支持を得た。

市長選は柯が国民党の候補者を1%以下の僅差で破り、再選を果たした。対立候補を立てた民進党に、彼はあからさまに反感を募らせた。

19年、柯は民衆党を結成し、政治的野心を大きく前進させた。民衆党は「青と緑の政治」を超越する第3の勢力を掲げているが、結成に当たり国民党陣営から既存の政治家を数多く呼び入れた。

柯は国民党の現職および元政治家とも長年にわたり親密な関係を築いている。その1人、フォックスコン(鴻海科技集団)創業者の郭台銘(クオ・タイミン)は、20年と24年の総統選で国民党候補としての出馬を模索した。

2人の親密な友情は、柯が本当に「青と緑の政治」を超越しているのだろうかという疑問を投げかける。今回の総統選も直前で撤退した郭が、柯を支持するかどうかが注目されている。

柯の政治的な人気が高まり始めたのは、蔡総統が2期目に入ってからだ。二大政党に不満を持ち続ける台湾の人々は、柯を有意義な第3の選択肢と見なし、今回も総統選に出馬するのではないかという期待が高まっていた。

若い世代の心をつかむ

柯は、如才のない伝統的な政治家とは異なる非エスタブリッシュメントな人物というブランドを確立してきた。ソーシャルメディアに精通したチームが、「一味違う」政治家、つまり、堅苦しくなくて、率直で、「思ったことは何でも口にする」政治家をアピールしている。

その政治姿勢は漠然としたものも少なくないが、二大政党や既成の政治家にうんざりしている有権者を引き入れるには十分だ。ただし、失言も多く、女性蔑視をめぐって繰り返し物議を醸しており、最近もLGBTQ+(全ての性的少数者)は精神的な病気であるかのような発言が批判を浴びた。

対談
為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 セカンドキャリアの前に「考えるべき」こととは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国GDP、第2四半期は5.2%増で予想上回る 米

ワールド

インド6月卸売物価指数、前年比-0.13% 19カ

ビジネス

午前の日経平均は小反発、国内金利上昇で上値重い 金

ワールド

7─9月の石油需要「非常に強い」=OPEC事務局長
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 10
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中