最新記事
注目ニュースを動画で解説

「代わりの供給国が必ず見つかる」ほか、中国レアメタル規制が不発に終わる5つの理由【注目ニュースをアニメで解説】

2023年8月24日(木)20時05分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
中国レアメタル規制

Newsweek Japan-YouTube

<中国が開始した重要原材料の輸出規制の行方について、ロシアの禁輸措置の「失敗」から学ぶことができる。その5つの教訓を解説したアニメーション動画の内容を一部紹介>

天然ガスの輸出を止めたロシアに続き、今度は中国が、ハイテク製造業に不可欠なレアメタル(希少金属)のガリウムとゲルマニウムを含む製品の輸出規制に踏み切った。「資源は武器」としばしば考えられるが、その脅威はどこまで本物なのか。

自国の天然ガスを武器化したロシア政府の「失敗」から、中国の指導層を思いとどまらせるに足る5つの教訓を提示する。

本記事では、本誌YouTubeチャンネルの動画「「中国レアメタル規制は不発に終わる」ロシアの禁輸に学ぶ5つの教訓【アニメで解説】」の内容をダイジェスト的に紹介する。

 
 
 
 
◇ ◇ ◇

【教訓1】重要原材料の価格上昇は必ずしも悪いことではない

ロシアが天然ガスの供給抑制を発表すると、欧州全域でエネルギー価格が高騰し始めた。ただ、中国が主要な生産国となっている重要原材料の価格が上昇しても、その影響は多くの人が懸念するほど大きくはなさそうだ。

そもそも、こうした1次産品は高くない。EUの場合、人工衛星や半導体などの製造に不可欠なベリリウムの年間輸入額は500万ドル、触媒コンバーターに使うパラジウムでも40億ドルにすぎない。EUの年間輸入額全体(約3兆ドル)に比べたら微々たるものだ。

現時点で中国産のシェアが高いのは、ダンピングで市場を制覇し、他国の競争力をそいでいるため。価格が上昇すれば中国以外の生産者も市場に参入しやすくなる。

nwyt230824_5.jpg

【教訓2】代わりになる供給国は必ず見つかる

天然ガスの供給を止めれば、EU諸国は寒い冬に燃料を確保できずに困るに違いないとロシア側は踏んでいたが現実は違った。欧州各国はノルウェーやアルジェリア、アメリカなどから天然ガスを調達することができた。

中国の場合も同じことになる。中国は一部の重要原材料に関しては主要な生産国だが「唯一の」生産国ではない。

レアアースを除けば、EUは5つの重要原材料(ビスマス、コバルト鉱石、マグネシウム、マンガン、ストロンチウム)の65%以上を中国から輸入しているが、中国以外の産出国も価格が上昇すれば喜んで生産を拡大するはずだ。

nwyt230824_25.jpg

世界のグリーン転換に欠かせない6つの原材料(リチウム、グラファイト、コバルト、マグネシウム、ニッケル、銅)は、中国以外の国でも採れる。

nwyt230824_9.jpg

【教訓3】グリーン転換で欧米各国における精製施設の建設が進む

ヨーロッパには他国から輸入する液化天然ガス(LNG)を処理する十分なインフラがなく、不足分を補えないと、ロシア側は見込んでいた。1年経った今、欧州のLNG処理能力は過剰になるほどだ。

重要原材料も採掘後の精製インフラを必要とする。覇権を握っているのは中国だが、この状況が永遠に続くとは思えない。

中国の脅しは欧米諸国での精製インフラ開発を加速させ、中国の支配的地位を失わせる可能性がある。中国以外の国に新たな精製施設を建設するには理想的なタイミングだ。

nwyt230824_13.jpg

【教訓4】危機は同盟国間の協力を促す

ウラジーミル・プーチン大統領は天然ガスの輸出を停止することでEU全体の緊張と分裂をあおり、欧州諸国をアメリカから引き離そうとした。しかし、この作戦は裏目に出た。欧州は共通購入メカニズムを構築して一体となり、アメリカやその他の国からのLNG輸入を増やした。

中国が重要原材料の輸出を止めても、同じ立場の国々の協力に弾みがつくことだろう。既にその兆しは表れており、EUは重要原材料の供給を確保すべく「バイヤーズ・クラブ」の設立を提案している。

公的な協力は鉱物資源のマッピング、採掘基準の作成、重要原材料のリサイクル方法の研究など、採算性の低い活動に対して行われる可能性が高い。

nwyt230824_14.jpg

【教訓5】資源供給国としての信頼を失うのは中国にとって損失

ロシア政府の判断の、最も長期的で想定外の副作用は信頼の低下だろう。エネルギー供給国としての失われた信頼を取り戻すのにロシアはこれから苦労することになる。

中国の経済プロジェクトは政治に左右されないと中国政府は何度も表明してきたが、その約束を覆せばダメージは大きく、深刻なものとなる。それによって傷つくのは中国の企業だ。

中国の輸出する重要原材料の大部分を買っているのは一握りの豊かな国々であって、西側先進諸国に代わる重要原材料の買い手を見つけるのに苦労するだろう。

nwyt230824_17.jpg


■詳しくは動画をご覧ください。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

クアッド首脳、海洋安全保障巡る連携強化協議へ 中国

ビジネス

市場は引き続き不安定、経済・物価見通し実現へ影響見

ビジネス

リガクHDが10月上場、米カーライルの保有比率4割

ビジネス

ECB、国境を越えた銀行の統合を期待=デギンドス副
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    クローン病と潰瘍性大腸炎...手ごわい炎症性腸疾患に高まる【新たな治療法】の期待
  • 2
    世界で最も華麗で高額な新高層ビルに差す影
  • 3
    「ポケットの中の爆弾」が一斉に大量爆発、イスラエルのハイテク攻撃か
  • 4
    岸田政権「円高容認」の過ち...日本経済の成長率を高…
  • 5
    他人に流されない、言語力、感情の整理...「コミュニ…
  • 6
    米大統領選を左右するかもしれない「ハリスの大笑い」
  • 7
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 8
    地震の恩恵? 「地震が金塊を作っているかもしれない…
  • 9
    浮橋に集ったロシア兵「多数を一蹴」の瞬間...HIMARS…
  • 10
    「ゾワッとする瞬間...」大ヘビが小ヘビ2匹を吐き出…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢な処刑」、少女が生き延びるのは極めて難しい
  • 3
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 4
    クローン病と潰瘍性大腸炎...手ごわい炎症性腸疾患に…
  • 5
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 6
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 7
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...視聴した「禁…
  • 8
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 9
    エリザベス女王とフィリップ殿下の銅像が完成...「誰…
  • 10
    世界で最も華麗で高額な新高層ビルに差す影
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 4
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 5
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 6
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 7
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 8
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじ…
  • 9
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 10
    ロシア国内クルスク州でウクライナ軍がHIMARS爆撃...…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中