【解説】最新の研究で解明進む、ネアンデルタール人の新事実──そして我々のこと

WHAT MAKES US HUMAN

2023年1月19日(木)13時00分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)
現生人類とネアンデルタール人

化石の骨を基に再現されたネアンデルタール人女性(右)と現代の女性 JOE MCNALLY/GETTY IMAGES

<ネアンデルタール人と現生人類との違いはごくわずかだった。では、どうして私たちが地球で生き残ったのか>

地球上から姿を消して4万年近く。いまネアンデルタール人が脚光を浴びている。

近年の研究によると、太古の時代に生きた太い眉の私たちの親戚たちは、料理人であり、宝石職人であり、画家でもあったらしい。昨年は、ネアンデルタール人の遺伝学的研究の業績により、スウェーデンの古遺伝学者スバンテ・ペーボがノーベル医学・生理学賞を受賞している。

最も新しい発見を見れば、いま科学者たちの目の色が変わっている理由がよく理解できる。

ロシア・シベリア南部のアルタイ山脈にあるチャギルスカヤ洞窟は、ネアンデルタール人の基準からすると、ゴージャスな邸宅と言えるだろう。崖近くの洞窟には2つの部屋があり、入り口からは広大な渓谷を見渡せる。洞窟の住人たちは、緑豊かな土地を移動する馬やバイソンなどの獲物をすぐに見つけられたはずだ。時には、素晴らしい眺望を楽しむこともあったのかもしれない。

「理想的な住居と言っていい」と、トロント大学のベンス・ビオラ准教授(古人類学)は言う。

だからビオラは2010年のある集まりで、ロシア人の共同研究者から「実はサプライズがあるんだ!」と言われたとき、あまり驚かなかった。共同研究者がシャツのポケットから取り出したビニール袋には、保存状態が良好な下顎骨の化石が入っていた。

その化石は、チャギルスカヤ洞窟で見つかった骨だった。ビオラは一目見てすぐに、それがネアンデルタール人の骨だと分かった。

しかし、このシベリアの洞窟から得られた考古学的発見の規模は、ビオラの予想を大きく超えていた。過去11年間の発掘調査により、9万点の石器、30万点の骨片が見つかっている。昨年10月には、ビオラやペーボも参加した共同研究の成果が科学誌ネイチャーに発表された。

遺伝学的研究により、この洞窟で見つかった骨の主たちは家族関係にあることが分かった。父親と10代の娘など、遺伝的つながりのある少なくとも11人の骨が特定されている。ネアンデルタール人の家族集団が確認されたのは、これが初めてだ。骨の主たちはほぼ同時期に、おそらく餓死したものとみられる。

考古学的発見と、この10年で導入された最先端のテクノロジーにより、ネアンデルタール人に関する古い固定観念が打ち砕かれ始めた。

ネアンデルタール人は、棍棒を握って背中を丸めて歩き、ごく簡単な言語だけを発する原始的な人々などではなかったようだ。もっと知的で洗練された文明を持っていたらしい。

近年の科学的研究により、ネアンデルタール人への理解が急速に深まっている。同時にネアンデルタール人との比較により、私たち現生人類の特徴も明らかになりつつある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アップル、欧州委が是正策阻止と主張 DMA違反の申

ワールド

造船再生で1兆円投資基金の実現急ぐ、民間は3500

ワールド

EU加盟国、気候目標の緩和が可能な改定求める 首脳

ワールド

国際司法裁、ガザでの人道義務順守を勧告 イスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 9
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中