最新記事

ベラルーシ

プーチンの「使い勝手のいい駒」──支持してもロシアのために戦いたくないベラルーシ

Inching Toward Invading

2023年1月5日(木)12時01分
ノーマ・コステロ(ジャーナリスト)、ベラ・ミロノバ(ハーバード大学客員研究員)

230110p32_BRS_02.jpg

プーチンは22年12月、ベラルーシでルカシェンコと会談 PAVEL BEDNYAKOVーSPUTNIKーKREMLINーREUTERS

戦いたくない兵士たち

国境地帯に配置中の兵員の推定数には、大きな幅がある。とはいえロシア軍の増援部隊を含めて、計3万人以上の展開に備えていると、ウクライナ当局者らは言う。

リウバコワの話では、ベラルーシ軍兵士はその一部を占めるにすぎない。「ウクライナ侵攻当初、戦闘準備が整っていたベラルーシ軍大隊の兵員総数は1万人弱。明らかに、ウクライナに打撃を与えるのに十分な規模ではないが、彼らを失えば、ルカシェンコにとって問題になるだろう」

ベラルーシの運輸労働者らが、メッセージアプリ「テレグラム」に作成したチャンネルでは、対ポーランド国境へ向かう兵士・軍事装備の動きを追うことができる。人気が高いあるチャンネルによれば、12月中旬のある日には、対ロシア国境から約60キロ離れた北東部の都市ビチェプスクからブレストに、軍需品と共に兵士計310人が送られた。

複数の衛星画像では、別の国境地帯の森林に新設された道路を移動する軍用車両が確認できる。ベラルーシ軍大隊にロシア軍兵士2万人以上が合流して新たな戦線を張る可能性があると、ウクライナ側は懸念している。

一方で、ウクライナ軍の下で戦うベラルーシ義勇兵集団、カストゥーシュ・カリノーウスキ連隊のバジム・カバンチュク副司令官は、ベラルーシの対ウクライナ参戦は間近とみる。

「ベラルーシ軍の8割は、この戦争を戦いたくないと思っている。ウクライナに派遣されたら、軍は崩壊する。それが分かっているから、ルカシェンコは(派兵を)避けようとしているが、事態がエスカレートして制御不能になり、総動員令発令や参戦に発展するはずだ」

派兵したら負けるのは

しかし、大量の地雷が仕掛けられた国境地帯を、多数の死傷者を出さずに越えるのは難しい。ベラルーシでの軍事的増強は、新たな戦線をちらつかせてウクライナ軍を攪乱するための情報作戦だと主張する向きもある。

ウクライナへの即時攻撃は、あり得ない展開ではないものの可能性が低いとリウバコワは言う。「これはロシアの情報作戦だと考えている。ベラルーシの現体制は使い勝手のいい仲間として、ロシアに協力している」

「即時攻撃に踏み切るだけの兵力が整っていない。だが22年2月(のウクライナ侵攻前)には、多くの人が判断を間違えた。プーチンにとって(ウクライナの首都)キーウ(キエフ)掌握は軍事的観点から見て最も論理的であり、ベラルーシを経由するのがキーウへの最短ルートだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、CPI伸び鈍化もインフレ見

ワールド

サウジ、米に6000億ドル投資確約 トランプ氏訪問

ワールド

トランプ氏、対シリア制裁解除へ 暫定大統領との面会

ワールド

イランの核兵器保有決して容認せず、「最も破壊的な勢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 3
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」にネット騒然
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 6
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 7
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 8
    トランプは勝ったつもりでいるが...米ウ鉱物資源協定…
  • 9
    「奇妙すぎる」「何のため?」ミステリーサークルに…
  • 10
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 6
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中