最新記事

カタールW杯

W杯スタジアムはタリバンの協力を得て建設されていた

2022年12月7日(水)16時00分
青葉やまと

カタール政府と過激派組織との長き関係

テレグラフ紙は本件が、「議論を引き起こし労働者の虐待疑惑が発生している大会に、さらなる疑問を投げかけるものである」と指摘している。

米保守派ニュースメディアのワシントン・エグザミナーは、カタール政府と過激派集団とのあいだには歴史的に強い結びつきがあると解説している。

「カタールの政権には、テロ集団を支援してきた長い歴史がある。(イスラム原理主義組織の)ハマスに2012年以来18億ドルを供与し、安全な隠れ家を提供してきた。また、タリバンには『豪華な複数のSUV、無料の医療ケア、エアコン付きの住居』が与えられている」と記事は指摘している。

中東安全保障アナリストのセス・フランツマン氏は同メディアに対し、カタール政府がタリバンを「復権に導くべく支援した可能性が高い」との見方を示した。

カタール政府はまた、タリバンと非公式な同盟関係にある武装組織アルカイダに対しても、同組織のハリド・シェイク・モハメド元幹部がFBIの捜査網から逃れられるようパスポートを発給した疑いが持たれている。モハメド元幹部は911テロの首謀者のひとりでもある。

ワシントン・エグザミナーは、「イスラム過激派に対するカタールの危険な支援は根強く続いており、中東の大部分を不安定にしてきた」と指摘している。

大会はかえってカタールの評判を貶めたとの指摘も

カタールの名声を高めると期待されたW杯だが、逆に評判を貶めているとの指摘も出始めた。

英ガーディアン紙は昨年、開催決定以来カタールでは6500人の移民労働者が死亡していると報じた。大会が開幕してからも、同性愛者への差別問題やアルコール販売の撤回など騒動が相次いでいる。

サッカー関連のニュースを報じるフットボール365によると、元BBCジャーナリストのジョン・ソペル氏は、カタール国民がいまや開催招致を後悔しているとまで断言している。この発言はソーシャルメディアで広く拡散された。

経済的利益も当てが外れたようだ。カタールは過去12年間でW杯関連の事業に3000億ドルを投じ、競技場や交通網などを整備してきた。しかし、英エコノミスト誌は、W杯開催による経済効果は170億ドルに留まると指摘する。これは投資額の約5.7%にすぎない。

大会はいつしかカタール国民から、無用の長物呼ばわりされるまでになった。英ウイーク誌は、維持費が高くつくだけの厄介者を意味する「白い象(white elephant)」と呼ばれるようになったと報じている。

サッカーW杯史上初の中東開催で話題を集めたカタール大会だが、課題は文化的価値観の相違に留まらなかったようだ。過激派組織との繋がりが報じられる後味の悪い展開となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中