最新記事

ロシア

「ウクライナは情報操作のため『戦争被害者を演じる役者』を使った」説は本当か

Fact Check: Russia Claims Injured Ukrainian Mom in Photo Is Crisis Actor

2022年10月2日(日)15時55分
トム・ノートン
ウクライナ戦争被害者

@stillgray/Twitter

<ウクライナを巡る別々のニュースに同一人物がいるのは「役者」を使った情報操作だとロシアは陰謀論を唱えるが、事実はどうなのかを検証する>

ウクライナ東部の4州をロシア連邦の一部にすべきかを決める住民投票が強行され、国際社会からロシアへの非難が続くなかで、あるロシア当局者がツイッターで「反撃」を行った。住民投票に関する疑惑を含む「ロシア批判」を盛り上げるため、親ウクライナのプロパガンダ拡散者が、戦争被害者を装った「俳優」を使ったと主張したのだ。

■【写真】なぜ別々のニュースに同一人物が...「プロ被害者」との主張の根拠とされる比較画像

ロシアの国連次席大使ドミトリー・ポリャンスキーが投稿したツイートは、包帯を巻いた女性の写真2枚が並んだツイートをリツイートしたものだ。1枚目の写真は、2月25日にロシアに侵攻されたウクライナからの報道で使われていたものだ。

2枚目の写真は、9月にウクライナ東部で行われた住民投票に関する動画のサムネイル画像として使われたもので、そこに写っている女性は同一人物のように見える。

ポリャンスキーはこれらの写真について、「彼女はプロの被害者のようだ。アカデミー賞の特別賞を新設した方がいいかもしれない」と、ツイートした。ポリャンスキーがリツイートしたもともとのツイートは、評論家のイアン・マイルズ・チョンが投稿したもので、「この女性は、あと何回負傷するのだろう?」と書かれている。

この主張は、クライシスアクターという概念に関連する。クライシスアクターとは、文化や政治の世界の周縁で広まっている陰謀論のひとつであり、メディアに登場する危機の被害者を「国家や秘密の権力に利用された俳優だ」として非難する。

こうした誤解を招く無神経な戦術は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックやアメリカの銃乱射事件などでも、不正確な情報を広めるために使われてきた。そして今回のウクライナ戦争でも、この戦術が巧みに使われているのだ。

写真の女性は実際にロシアの攻撃で負傷した人物

ポリャンスキーのツイートで並べられている2つの画像を比較すると、同じ女性が数カ月の間を開けて、同じ場所を負傷した状態で撮影されたことを示しているように見える。紛争が始まった直後と、ウクライナ東部で住民投票が行われている最中だ。

では彼女は「ロシア批判」を盛り上げるために雇われた役者なのか。答えはノーだ。ただし、2枚の写真の女性が同一人物なのは本当。ウクライナ出身の53歳の教師オレナ・クリロという人物だ。

クリロは2月24日、ロシアがハルキウ州チュグエフを標的にミサイル攻撃を行った後で、外国メディアの取材を受け、写真を撮影された。1枚目の印象的な写真は当時、そしてその後、ウクライナ侵攻に関する初期の報道で広く使われた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中