最新記事

サイエンス

氷点下でも凍らない水の謎、しくみ解明に前進......分子が「プレッツェルのような形」

2022年9月29日(木)18時30分
青葉やまと

<水が氷点下でも凍らない「過冷却」。分子が込み入った配列に並ぶため、氷に変化するスペースがないのだという>

水は、氷点下まで冷やしても凍らないことがある。この不思議な状態の水には、さらに不思議なことに、通常の水とは分子の並びが異なるようだ。イギリスとイタリアの共同研究チームが、コンピューターシミュレーションによって分子の状態を解明した。

通常、水を氷点以下まで冷やすと、凝固がはじまって氷となる。ところが、至極ゆっくりと冷却してゆくと、氷点以下に突入しても液体の状態を維持することができる。過冷却とよばれる現象であり、-20度前後までは比較的簡単に液体を維持できる。過去に行われた特殊な条件下の実験では、-263度で液体を保持することにごく短時間成功した例もある。

過冷却水は半ば不安定な状態にあり、なにか物体を投入したり容器を振ったりするなど、衝撃を与えると瞬く間に凍結がはじまる。その不思議な特性から、科学実験でもしばしば取り上げられる現象だ。自然界でも過冷却は存在しており、たとえば高い高度の雲が凍結せず小さな水滴の状態を維持しているのも、過冷却の現象の一種だ。

このとき、過冷却になった水は、見た目には常温の水と同じだ。しかし、ミクロの世界ではまったく違った状態になっているのだという。

分子の配列がプレッツェル状や鎖状に

水の分子は、酸素原子1つと水素原子2つからできている。酸素原子の球を中心として、まるで耳のような位置に水素原子2つがついたモデル図をみたことがある人も多いだろう。

英バーミンガム大学と伊ローマ・ラ・サピエンツァ大学の研究者たちは、過冷却の状態でこの分子同士がどのように並んで水を構成しているかを検証した。過冷却を維持しながら分子を観察することは困難であるため、コンピュータ上のシミュレーションを利用したという。

バーミンガム大が発表した資料によると、通常の水に関するシミュレーションでは、分子が環状に並んだ状態が確認されたという。研究チームは、比較的単純な状態であり、密度の低い状態だと説明している。

一方、過冷却となった水は、これよりはるかに複雑な構造へ変化するようだ。分子同士がより「絡み合う」ことで、「高密度の液体」になるという。常温で円環に近い形状に配置されていた分子は、プレッツェル状や鎖の結び目のような「トポロジー(位相幾何学)的に複雑な形状」へと変化し、より高い密度で集合する。

「液液相転移」をシミュレーションで実証

このユニークな構造は、氷点下でも液体の状態を保つ過冷却に関与しているようだ。科学ニュースサイトの「ZMEサイエンス)」は、「研究チームによると、高圧低温下でH2O分子は、自然と結び目をつくるような予想外の形状となる。この変化により、通常は結晶化し氷になるような条件下でも、液体を保つことができる」と説明している。

科学ニュースサイト「サイエンス・アラート」はより踏み込み、「結晶化した状態(氷)へと移行するための空きスペースに余裕がないため、分子は別の最適な配置を探す必要があるのだ」と解説している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:メダリストも導入、広がる糖尿病用血糖モニ

ビジネス

アングル:中国で安売り店が躍進、近づく「日本型デフ

ビジネス

NY外為市場=ユーロ/ドル、週間で2カ月ぶり大幅安

ワールド

仏大統領「深刻な局面」と警告、総選挙で極右勝利なら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ノーベル文学賞らしい要素」ゼロ...「短編小説の女…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中